アプリマーケティングとiOS計測の歴史
昨年出版した書籍『アプリマーケティングの教科書』を読んだオプト社から、『アプリマーケティングとiOS計測の歴史』というマニアックなテーマで講演して欲しいと言われ、喋ってきました。
(依頼主がコテンラジオのリスナーだったことが、後から分かりましたw)
アプリマーケ玄人勢からも好評で「全広告代理店の新入社員向けにやるべき」とまで言われたのですが、さすがにそんな余裕はないので、ダイジェスト版をnoteで公開します。
(呼ばれたらやりますw)
アプリマーケティングの歴史
僕が社会人になった2008年当初は、まだiPhoneが出たてで、新しいモノ好きな人がFruits NinjaやTouch the Numbersで遊んでるような時代でした。
パズドラ・モンストやメルカリがリリースされたのが2012-2013年とかで、もう10年以上前ですね。
そこから世界中でスマホ端末が普及し、アプリの種類も500万近く流通するようになりました。
2014年頃までは、スマホの主流な広告フォーマットは横に細長いバナーと、ユーザーに報酬を与えることでDL数を稼ぐブースト(それによりアプリストア内のランキングを上げて、オーガニックインストールを増やすのが目的)などでした。
2014-2015年頃から、動画広告の市場に多くのプレーヤーが参入して活発化しました。このタイミングになった理由はいくつかあって、例えば『スマホ端末のスペック向上』や『4G回線の普及』といったハード・インフラ要因、『広告主がCPIよりROASを重視するようになった』『ユーザーが全画面や動画広告に慣れてきた』といったソフト要因などです。
メジャーな広告媒体も同様に変遷してきました。
Google, Meta, Apple, Tiktokなどいわゆるbig tech媒体は、主力フォーマットを変えながらもずっと上位ポジションを維持。
AppLovinやUnityなどの動画広告主体のアドネットワークは、2014-15年頃から日本に進出。いくつか撤退したところもありますが、いくつかは現在でもトッププレイヤー。
MolocoやLiftoffといったDSP勢が、後発ながらライジング。
一方、2010年代前半まで日本で最大勢力だった国産アドネットワークは、近年では振るわず。2024年3月にはnendがサービス終了しちゃいましたね。
アプリ計測の歴史
ここからアプリ広告の計測の話に入ります。
初めてアプリマーケティングをやる方からよく聞かれる質問に
「トラッキングツールって必須ですか?」
「Google Analytics / Firebaseで 広告トラッキングも出来ませんか?」
といったものがあります。
この質問は『トラッキング』と『アナリティクス』を混同しちゃってるんだと思います。
広告文脈に限った定義ですが、ユーザーがサービスを使い始めた『後』の動きを『分析』するのが『アナリティクス』で、サービス利用開始『前』にユーザーがどこから来たのかを『計測』しようとするのが『トラッキング』。
webの世界だと同じツールでこの両方を出来たりしますが、アプリの場合はトラッキングとアナリティクスで別のツールが必要です。
今回は『トラッキング』のみを扱います。
そもそもトラッキングって何なのかというと、
『広告に接触した人』と『アプリをDLした人』を『同一人物だと特定(or推定)する』ことです。
例えば、皆さんが居酒屋のオーナーだったとして、来店してくれた人が駅前で客引きに声かけられたのか(法?)、ホットペッパーのクーポンを見て来たのか、って知りたいじゃないですか。
それを知ることで初めて、どの集客手段の成果がどれぐらいあって、費用対効果がどれぐらいで、明日以降どの集客手段にどれぐらい投資するのが良いか、って意思決定が出来ますよね。
正しいトラッキングは、正しい意思決定のために必須なんです。
何をもってトラッキングしていたか、はiOSでは大きく『cookie』『IDFA』『SKAN』に分けられます。Androidでいうと『IDFA』のかわりに『GAID』、『SKAN』のかわりに『Privacy Sandbox』ですね。
まずはcookieによる計測。若い方は経験ないかもしれませんが、昔は広告をクリックしてアプリストアに飛ぶ前にブラウザを挟み、DL後の初回起動時にもブラウザが立ち上がってリダイレクトされて…っていう謎な挙動が一般的でした。
これ何やってたかっていうと、ブラウザのcookieの一致をもって、広告に接触したユーザーとアプリをDLしたユーザーが『同じ人だ』と特定し、広告の成果・効果をカウントしていたということです。
ただ、この方法はユーザーにとって、IDの利用(トラッキング)を制限することが難しいという理由で、プラットフォーム(Apple)により禁止されます。
そのかわりに「これ使えや」ってAppleが準備したのが『IDFA』(ID for Advertising)です。これはアプリ広告に特化した識別子で、モバイル端末ごとに1つ発行されます。アプリ広告はこのIDしか使っちゃ駄目よ、って義務が課せられています。
ユーザーは、IDFAを「使わないでちょ」って制限することも出来るし、IDそのものをリセットすることも簡単に出来ます。(実際のやり方を知ってるエンドユーザーは多くはないかも)
このIDFAというものは、以前までは「ユーザーに駄目って言われなければ自由に使っていいよ」という扱いだったのですが、2021年にこれが変わりました。業界激震。
こういうポップアップ、新しくアプリをDLしたときに必ず出ますよね?これ何かっていうと、iOSバージョン14.5以降では、IDFAは「ユーザーが良いよって意思表示しない限り使っちゃダメ」なものになっちゃったんです。
『原則NG、許可とれればOK』というのは『オプトイン』と言います。上記の変化は「IDFAがオプトインになった」というのが、玄人っぽい言い回しです。
実際どれぐらいのユーザーが『許可』を押しているのか?というのが『オプトイン率』という指標です。いろんな調査が出てますし、国やカテゴリによっても上下しますが、ざっくり3割程度っぽいです。
トラッキングを成立させるためには、ユーザーが広告に接触した時点と、ユーザーが広告主のアプリを起動した時点の、両方でIDFAを取得できていないといけません。オプトイン率が3割ということは、広告配信面と広告主のアプリの両方でオプトインされている確率は、単純計算で9000%です (30% x 30%)。嘘です、9%です。
ってことは90%以上の確率で、IDFAによるトラッキングが出来なくなってしまう、ってことなんです。
でも安心してください。Appleさんはちゃんと代替ソリューション『SKAN』というものを準備してくれました。SK AdNetworkという言葉の略称です。SKっていうのはStoreKitという、AppleがApp Store絡みのあれこれ機能を使えるようにするフレームワークのことです。まぁ忘れていいです。
SKANはIDFAやcookieと違って、IDが直接外部(広告主や広告ネットワーク)に渡されるものではありません。むちゃ雑なイメージとしては、Appleに「すみません、うちの広告なんですけど、どれぐらい効果ありました?」って聞いたら、「3日前に、25件」って結果だけを教えてくれる、みたいなかんじです。
IDがAppleの外に出ないので、ユーザーはプライバシーに関する心配をする必要がありません。他にも、IDFA時代はトラッキングにおいてGoogle, MetaなどSRN (Self Reporting Network) と呼ばれる大手媒体が他より有利な立場にあったところ、SKANではAppleが唯一絶対の審判になるので立場が公平になった…みたいなメリットもあります。
けど一方、SKANのデータはリアルタイムでは取得できないとか、取得できるデータに制限があったりと、いかんせんマーケターがやりたいことをやるには不十分と言わざるを得ません。今後少しずつ改善されてくるかもしれませんが。。
(SKANの仕様は定期的にアップデートされるので、この記事では詳細には取り扱いません。別のところでウォッチすることをお勧めします)
IDFAがほぼ使えない、SKANは不十分、じゃあどうするの?
に対する答えが、現状ではMMP (Mobile Measurement Partner = いわゆる計測ツール) が提供する『確率論的モデリング』というもの。
これは、IDによって広告に接触したユーザーとアプリをDLしたユーザーを『特定』しようという従来のアプローチとは異なります。
IPアドレスやユーザーエージェントなどの "取得可能な情報(シグナル)" の一致度をもとに、「多分このユーザーは、X時間前に広告をクリックしたこの人と、同じ人っぽいぞ?」と『推定』するってアプローチです。
100%の精度ではありませんが、それなりに精度高そう (MMP自身が言うには9割以上らしい) というのと、IDFAの頃と実務が変わらないといったことから、肌感ではSKANよりこっちを採用している広告主が多そうな気がします。
本編としては以上です。なるべく分かりやすく解説したつもりですが (そのため厳密には正確性を欠いている箇所もあるかもしれません、ご了承ください)、少しでも伝わっていれば幸いです。
直接話したい方がもしいらっしゃったら、X @tatsuosakamoto までお気軽にDMください!
こういった話、マニアックだな〜と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ハズした状態でプロモーションを行うと全然間違った意思決定を行うリスクがあります。正しい知識をアップデートし続けることは、モバイルビジネスを行う上で欠かせない『義務教育』だと認識してください。
ゼロから70点ぐらいまでの知識をまとめて得たい方は、ぜひ拙著『アプリマーケティングの教科書』を読んでみてください。
そんな感じですかね!