考察:なぜ日本のスタートアップが世界を獲るのが難しいのか
こんばんは!外資 IT サラリーマン 兼 エンジェル投資家の坂本達夫です☆ (効果音)
こないだ友達とチャットで議論した内容が、読み返してみたらけっこう面白かったので、記録の意味も込めて blog に残しておきます〜。テーマはズバリ…↓↓↓
なぜ日本のスタートアップが世界を獲れていないのか
【友人A】日本のスタートアップが世界で勝っていくにはどうしたら良いと思いますか?
ちゃんと英語で情報発信して、日本のスタートアップ個社や業界全体について知ってもらったら、世界での注目度も変わるものなのですかね?
日本のスタートアップが世界で勝っていくには何か大きなボトルネックがあるものなのでしょうか?
【以下 太字になってないのは坂本の発言】
僕も最近めちゃくちゃ考えてるトピックなんですが、今の仮説としては結局『ニーズに応えられていないから勝てていない』というシンプルなところに行き着く気がしています。
アメリカとか中国とかユニコーンが多いけど、必ずしも全てが『グローバル企業』というわけではなく、単なるアメリカ企業 (= アメリカ市場のみを対象とした企業)・中国企業、も少なくないです。
単にアメリカや中国というマーケットがデカくて、成長期待があるから、ユニコーンになっているわけで。
それらと比較するのであれば、『企業価値 300-500 億円ぐらいの、日本国内で成功してる会社』がたくさんあれば、市場環境としては同等、と見れるんじゃないかなと思います。
グローバル企業に至る 2 つのルート
ローカル企業でなくグローバル企業になれてるところって、2つのパターンしかないと思ってます。
1 つは、ローカライズをすげぇ上手くやってるところ。
上手くやれないと、どれだけ本国で上手くいってても、局地戦で現地企業に、あるいは他のグローバル企業に負けます。
もう 1 つは『グローバルで顧客ニーズが同じ』っていうレアケース。
僕がいるアドテクとかはこれです。
『獲得単価を下げたい』『広告費用対効果を上げたい』っていうカスタマーニーズと、プラットフォーム (App Store と Google Play)、計測ツール (Adjust と AppsFlyer)、とかが世界共通だから (中国など一部の国を除く)、ワンプロダクトで世界中の顧客に同じ価値を提供できるわけです。
この手の業界は、ローカル企業がグローバル企業に勝つのが相対的に難しくなります。規模の経済によって、仕入れ単価を下げたり、品質を高めたりってことがしやすくなるので。
ただしグローバル企業も、エグゼキューションはローカルに合わせないと上手くいかないです。
たとえばアドテクでいうと、日本だと広告代理店が強い、みたいなシチュエーションに合わせないといけない。
『グローバル』という 1 つの市場、なんてものは無いのさ
『グローバル』ってよく言うけど、その概念って実は海外展開するときには邪魔になると思うんですよね。
単一の『グローバル』なんてものはなくて、あるのは『ローカルの寄せ集め』でしかない。
だから、どの『ローカル』で勝負するのかを決めて、そこで勝つにはどうすればいいか、を個々に考えないといけないんです。
僕は今年、ヨーロッパのフィンテック企業にエンジェル投資したんですが、その会社の戦略を聞いたときにそのことを強烈に感じました。ヨーロッパを主戦場にする計画なのですが、Go-to-market Strategy の説明の中で、「最初にこの国とこの国、次にこれらの国をターゲットにする。それぞれの国の攻略の仕方は...」って説明するんですよ。
僕なんかだと『ヨーロッパ展開』とか、もうちょっと細かくても『東西南北ヨーロッパ』ぐらいの粒度でしか考えなかったりしがちですが、彼らには『国ごと』の解像度で見えてるんですよね。
これ同じことがアジアでも言えます。欧米の企業がアジアに展開するとき、『アジアに進出』『東アジアを統括』『東南アジア市場』みたいな粒度でこの地域を捉えがちですが、日本にいる僕らから見ると「いや、国ごとに全然違げーから」って感じますよね。そういうことです。
日本から海外戦略を立てる難しさ
そして、日本にいながら海外の『ローカル』を理解して戦略を立てるのは難しいです。これも 2 つ理由があると考えています。
1 つは、日本は地理的・文化的に遠いから、国外のユーザーやカスタマーニーズを把握するのが難しい。言語の問題もあります。
これは逆に外資が日本やアジアに入ってきづらい理由にもなるので、『日本で外資に勝つ』をゴールにする会社が多いのは自然なことだと思います。
2つ目は、文化差を深いところまで理解して、プロダクトや経営にフィードバックする、っていうことをやってきた人材が日本には極めて少ない。なぜなら単一文化、ハイコンテクストな日本で育ってきたからです。
少し長いけど、『ビジネス + 文化のデザイナー』安西さんとの対談動画を観てみてください。ビジネスにおける異文化理解ってこういうことか、ってちょっと解像度上がると思います。
海外のユーザーニーズを掴むには
ニーズに応えられていないってのは…ニーズが複雑すぎるから?着眼点がよくない?応えるまでのやり切る力が弱い?なんなんですかね。
『解像度高くわからない』ってとこに尽きる気がします。
例えば BtoB サービスなんかだと、US 企業ってみんなランチどうしてるんだっけ? 何時に会社に来て、どれぐらい休憩して、何時に帰ってて...みたいなところから『わからない』から、ニーズやペインがわからない = 想像するしかない。
IDEO のデザインシンキングみたいに、中に入っていってべったり密着して観察する、ってやらないと分からないですよね。
確かに ICC のマーケティングセッションでも、お客さんにベタ付きして課題やインサイトを見つけた、みたいな話よくありますね。
そうそう。toC サービスだと、実際にユーザーの家に行ったり、ユーザーを会社に招いて根掘り葉掘り話を聞かせてもらう、みたいなね。
例外として『自分が欲しいものを作った』ケースが時々上手くいくことがあります。これは、自分という明確なペインが、解像度高くそこにあるからですね。
みんなが同じペイン持っていれば、というのが前提にはなりますが笑
『こんなのあったらみんな嬉しいんじゃないかな〜』とは明確に違うわけです。
元来日本人って、人の気持ちに寄り添うとか得意そうなイメージあるんですけどね。
人の気持ちに寄り添うってのも良いとこ悪いとこあって、悪いところでいうと例えば、本音を言わない民族だとも言えるわけです。遠慮したり、相手の気持ちをおもんばかったりして。
そうすると真のニーズが表に出づらいんですよね。
トップ営業マンが上手いのは、たぶん雑談でコレを引き出すことなんじゃないかと。上手い下手があるってことは、多くの人は言葉の裏にある真のニーズの深掘りできていない、ってことでもあります。
別に海外の人が得意ってわけでもないんですよ。ただ 1 つには、日本人と比べると海外の人のほうが、困ってることや課題をストレートに言ってくれがち。悪く言うと、文句が多い。笑
あとは、単にその市場の中にいるから、たとえばアメリカにいる人は、アメリカ人やアメリカ企業のペインに、日本人よりも気付きやすいのは当然です。
その中でも上手くいってる会社のひとは、本音にぐいっと切り込んでる。その技術も研究されてますよね。さっきも出したけど IDEO のデザインシンキングとか。
スタートアップ支援の体制が足りていないのでは説
スタートアップ経営者以外の要因、例えば投資家を含む支援者、政・官、などの影響も何かありますかね?
そのへんは独立事象ではなくて相互に関連している事象なので、全部影響はあるし、1 つだけ変えても上手く行かないような気がします。
例えば日本の投資家・VC でいうと、ロットサイズが小さいとか、グローバルを狙う会社にリスク取って大きく張るとこが少ないとか、色々言われてますよね。
でも、彼らも商売でやっていて、彼らの後ろにいる投資家 (LP) に利益を返す義務があるので、自分たちの勝ちの期待値を最大化するように動くわけです。
そうすると、まだ成功例が出てない『日本からグローバル・ホームラン狙い』ってとこより、『日本でカタく EXIT できそう』なところに投資が集まるのは自然な成り行きです。競争の少ない国内で EXIT して何十倍・何百倍になりました、ってだけでも十分なリターンですからね。
もちろん各ファンドごとにサイズや戦略など違うので、一括りにして語ることは出来ないですが。傾向として、って話です。
どうしても、ゴールやインセンティブが、人間の行動を規定するところはありますからね。
💡 大企業に入ることが良いとされている & 大企業は学歴を重視する
➡️ いい大学に行きたい
➡️ 中高一貫の進学校に行きたい
➡️ 小学校からSAPIX
みたいなね。
そのループ変えるには、
💰 どこかの会社がグローバルで大成功する
➡️ みんながそれを目指すようになる
➡️ 必要な支援が明確になっていく
➡️ それをサポートできる投資家に人気が集まる
みたいな、1世代かけた変化が必要になると思います。
もしかするとその世界線では、日本の投資家が全然リードとれてないかもしれないですけどね。海外 VC との競争になってくるので。
そのモメンタムをどう生み出すか、ですよね。
コテンラジオ信者としては、これは他の人が生み出させるものではなくて、狂気をもった天才がいずれ勝手にやると思ってしまいますw
それが生まれたときに、めちゃくちゃ褒め称えて、フォロワーを増やす、ってのがいいと思うんですよね。周りがやれることとしては。
例えば「スマニューの鈴木健さんかっけー!」とか、シリコンバレーにいって起業してる日本人にをヒーローにする (カンファレンスやメディアでめちゃくちゃフィーチャーする) とかね。
トレジャーデータ社長よりもイケメン起業家 (ビジネスが上手くいってるとは限らない) のほうが人気な国なままでは、望みが薄いです。笑
なるほどーー!!コテンラジオ信者なのでめちゃくちゃ共感ですww
さて、ここから先はゲストが変わって、太字が僕、平文が別の友人K (美声) です。K 氏はわりと最近上場した SaaS 企業のエンタープライズ営業、というか、大手企業とデカい取り組みを仕掛けることに長けたイケメンです。
【坂本】エンタープライズ営業の猛者は、ユーザーの気持ちに寄り添っているんじゃないか説!
自分は、相手の気持ちに寄り添うとかやってないっすね。
もちろん、相対する人が理解しやすいように言葉選びをしたり、相手の出世に繋がるようなシナリオを考えたりとかは多少しますけど。
どっちかというと、相対する会社の本質的な課題がどこなのかを探りに行ってる感じっス。
その上で、その big issue に最終的に僕らがハマる提案ができれば、勝手にプロダクトは必須になるから。
ただ、自分の会社が現状グローバルに行けていないのは、この探索ができていないのもあるし、結構 issue の内容が種類が違う感覚っス。日本の会社は日本のことしか考えられてなくて、ビジネス自体もガラパゴス感あるっスからね。
だからプロダクトに戻す上での共通要素を見つけきれてなくて、飛び出せていない。
違ったニーズに個別対応してるわけにもいかないもんねえ。
そうそう。プロダクトを作る上での負債になっちゃうから。
ただ、この考え方って僕がエンタープライズ セールスやってる中の、ビジネス側からのボトムアップのプロダクト・事業開発じゃないすか。それを凌駕するプロダクトでぶん殴りに行く、ってのも 1 つの正解だと思うんすよね。
ありますね。でも「世界中のお前ら全員これ困ってるよなぁ!?」っていうのを作れる、つよつよプロダクトマネージャがいる場合に限られないですか?笑
僕の前職 Smartly.io みたいなのは分かりやすいですよね。Facebook 広告運用してる人 → みんな運用自動化とクリエイティブ制作困ってるよね? みたいな。
グローバルプラットフォームに乗っかる外部ツール、とかは比較的やりやすいし、日本人でもやれんことはないと思います。
そう、独自路線でいくと、プロダクトに戻す上での共通要素を理解した上で、事業とプロダクトを進化させつつ、収益を作るのが必要なんスよね。
「世界中のお前ら全員これ困ってるよなぁ!?」を作ろうとすると、グローバル対象にする場合はこれがテーマ的に壮大すぎる & 日本と感覚違いすぎるから、マジでこれ PdM できる人いんのかって課題はある(笑)。達夫の言う通り、グローバルの既存プラットフォームに乗っかるのが出やすいよね。
product、sales、finance、management ぜんぶある程度わかってないと得られない感覚だから、日本に限らず sales しかやってない人には習得ほぼ無理な気がしますね。剣士しかやってきてないのに、攻撃と回復呪文どっちも求められます、みたいな。
そうなんスよ。採用ハードルもクッソ高いし、全然いないんだけど、グローバルに限らずこういう人が何人いるかが結構鍵かも。
そんなかんじですかね!
海外を攻めてる、あるいはこれから海外を攻めようっていう日本のスタートアップの方に、少しでも参考になっていれば幸いです😎