『静止画のview throughを評価対象外にする』ことがなぜ悪手なのか
アプリ広告において、広告がクリックされず、見られただけなのに、その後に発生したインストールを「広告の成果だ」とするのは…何かしっくりこない。
納得いかない。
特に静止画。
動画ならまだ分かるけど。
そんな理由からか、『静止画広告についてはview through (ビュースルー) コンバージョン (CV) を評価対象に入れず、click through (クリックスルー) CV のみで効果を見る』という広告主さんや代理店さんが、少なからずいらっしゃいます。
この記事では、その判断基準が広告主さんにとって大きなリスクになってしまうため、『view through も評価対象に含めることを強く推奨する』ということを理由とともに解説します。
VTCV を評価対象から外すリスクとは
あらためて本記事の結論として、我々はクリックスルーコンバージョン (CTCV) に加えて、ビュースルーアトリビューションを有効にし、ビュースルーコンバージョン (VTCV) を成果に含めることを推奨しています。
VTCV を評価対象に入れないことによって、Moloco をはじめとする広告媒体や広告代理店が損をするから…ということではなくて、広告主さん自身がリスクに晒されることになるからです。
リスクというのは大きく 2 つ。
①間違ったマーケティングの意思決定をしてしまう
1 つ目は、例えば予算の配分など、マーケティングの意思決定が正しくできなくなってしまうという問題です。
セルフレポーティングネットワーク (SRN) と呼ばれる、Google・Facebook・Twitter のような大手 big tech 企業が提供する広告ネットワークと、それ以外の広告ネットワークや DSP を、違う物差しで比較することになってしまうというのがその理由です。
②クリックを多く計上させる媒体を高く評価しすぎてしまう
2 つ目の問題は、色々な方法でクリックをたくさん発生・計上させるような広告ネットワークや DSP を高く評価することになってしまう、というものです。
その結果として、時にはアドフラウド (広告不正・広告詐欺) のような手段を取るアドネットワークや DSP に対して、多くの予算を割いてしまうリスクが高くなります。
click through と view through についておさらい
あらためて、click through (CT) と view through (VT) について改めて説明します。
広告をクリックして、そのあとコンバージョン (アプリ広告の場合、インストール) が発生したものを、click through conversion (CT CV) といいます。
クリックではなく、広告の "視聴" のあとに発生したものを view through conversion (VT CV) といいます。
アプリ広告の場合は、原則としては MMP (mobile measurement platform、いわゆるトラッキングツール) が審判役を務めていて、ラストタッチ つまり『コンバージョンの前、最後に接触した広告が、成果に貢献したものとする』っていう判定を行っています。
CT と VT は 2 つの点で『強さ』が大きく異なります。CT のほうがだいぶ強いです。
1 つ目は『期間』。CT は、クリックから 7 日以内に発生した CV を成果対象としますが、VT は 1 日しか成果対象になりません。
(※主要 MMP のデフォルト設定の場合)
2 つ目は『優先順位』。CT と VT の両方が成果対象期間 (attribution window) にある場合、その後先にかかわらず、常に CT のほうに成果がつきます。
上の図で説明すると、1 と 2 はいずれも『CT 同士』『VT 同士』なので "ラストタッチ" 判定となり、後に接触したほうが成果としてカウントされます。
3 のケースがトリッキーで、"ラストタッチ" でいうと B のほうに成果がつきそうなのですが、"クリックのほうが優先" ルールが適用されるためなんと A のほうに成果がつきます。
広告ネットワークの立場で考えると『なんとかしてクリックさせたろう (クリックしたことにしたろう)』と腕まくりをする気持ちが分かりますよね。
つよいぞ!big tech👹
ここで問題となってくるのが、先ほどちょっとお話に出した『セルフレポーティングネットワーク (SRN)』と呼ばれるものです。
通常の広告媒体は上述の通り MMP が成果を判定する審判役をしてくれるのですが、Google, Twitter, Facebook など一部の媒体は MMP と裏側で API で接続していて (『API 媒体』と呼ばれたりもします)、MMP ではなく広告媒体自身がルールを決め、自ら成果判定をしています。
選手自身が審判をやっているようなものですね。
(だから不正が疑わしい!!と言いたいわけではないです。ファクトのみを見ましょう)
こちらはブシロードの森下 明さんが 2021 年末に出版された本『いちばんやさしいアプリマーケティングの教本』において図解されている、SRN 媒体のアトリビューション条件の解説です。
細部が変わっている可能性があるので最新の情報はご自身で確認いただきたいのですが、端的に言うと Google, Twitter, Facebook などの SRN 媒体は全て『ビュースルーを効果に含めて』おり、中にはユーザーが実際にはクリックしていないにも関わらず、そのアトリビューションを VT ではなく CT の方に付け替えるということを行っています。
Google アプリ広告のアトリビューション
例えば Google は、静止画広告の場合は、画面上にその広告の 50% 以上が 1 秒以上表示された時に VT の効果がつくという形になっています。
VT を OFF にすることは出来ません。
動画の場合『50% 以上が 2 秒間以上表示された時点で VT が付く』(OFF にはできない) という部分に関しては共通していますが、10 秒未満の動画か 10 秒以上の動画かでルールが若干異なっています。
10 秒未満の動画の場合、その動画が完全視聴された場合はクリックと同じものとしてカウントされます。
なので、例えば 6 秒のバンパー広告 (YouTube におけるスキップが不可能な 6 秒以下の動画) に関しては、全て CT としてカウントされていることになります。
10 秒以上の動画の場合には、その動画が必ずしも最後まで見られなくても、10 秒以上見られたというタイミングで CT と同じものとしてカウントされます。
ちなみにヘルプページを読むと、コンバージョン期間はアプリインストールキャンペーンの場合 2 日間みたいですね。7 日よりは短いけど、一般的な VT の 1 日よりは長いです。
Twitter, Facebook 広告のアトリビューション
Twitter はかなり強力で、10% 以上が表示されて、2 秒以上スクリーンの上に表示されるだけで全て、動画だろうが静止画だろうがクリックと同じものとして扱い、アトリビューション期間は14日間となっています。
Facebook の場合は VT を CT として取るということはないのですが、少しでも画面上にそのピクセルが表示された段階で VT が発生したものとされ、そこからのインストールは 24 時間成果として計上されるという形になります。
SRN がある世界で VT を OFF にするのは悪手
これらセルフレポーティングネットワーク (SRN) に関しては、VT をオフにするということができません。
そのため、他のアドネットワークや DSP について、VT をオフにしてしまうと、『apple-to-apple』つまり同じ条件下でのパフォーマンスの比較ができないということになってしまいます。
同じ条件で複数のアドネットワークのパフォーマンスを評価できないということは、マーケティングの意思決定を正しく行えないということになります。
例えば広告媒体の間での予算の配分などがそうです。
ということは、ビジネスの成長に対して、ネガティブなインパクトをもたらすことになります。
クリックを多く計上させる媒体を過大評価してしまう
また『クリックだけを評価する』ということをしてしまうと、"色々な" 方法でクリックをたくさん発生させるようなネットワークをより高く評価することになります。
ので、そのようなネットワークのトリッキーな挙動に騙されることにも繋がりかねません。
例えば
🥁 クリック URL をインプレッションのタイミングで叩く
だったり、最近よく聞く話では
🥁 動画が最終視聴されたタイミングでクリック URL を発火する
といった手法。
理解して、納得した上でやってるなら良いんですけどね。中には『全媒体その条件で運用する』ってポリシーの、アグレッシブな広告主さんもいます。
各媒体のインプレッションとクリックの定義と、本当に説明通りの挙動になっているか、定期的にレポートやログデータから検証してみると良いですね。(ダマで変えてくるところもあると聞きます)
あるいは『クリック インジェクション』。
端末内に仕込まれたマルウェアによって、
😭 アプリを初めて起動するタイミングで特定アドネットワークのクリック URL を叩くというタイプのアドフラウド (広告不正、広告詐欺)。
ちなみにこれらが発生している媒体には、以下のいずれかの兆候が出がちです。
☑️ 異常にクリック率 (CTR) が高い
☑️ インプレッション数と同じぐらいクリック数がある
☑️ クリック数は多いけど、インプレッション数は非開示
推奨する設定
理想はセルフレポーティングネットワーク (SRN) も含め、全てのアドネットワークを同じ基準で比較すること。
ですが、SRN については先ほど図解した通り、同じ条件で比較できるわけではないため、"なるべくそこに近づける" ということを推奨しています。
その推奨設定とは MMP がデフォルト設定としている『クリックスルー 7 日、ビュースルー 1 日』というものです。
暗号っぽく書くと『CT 7D / VT 1D』
Moloco だけが推奨している、ポジショントーク設定ではないんです。
CT と VT をなるべく SRN と同じにするというのが、ベストプラクティスとして業界的に推奨されているのです。
タイム・トゥ・インストール (TTI = 広告とのインタラクションからインストールまでにどれくらいの時間がかかったか) という分析を通じて、VT の期間を 24 時間から短くするような広告主さんも中にはいらっしゃいます。
これはただ単に短くすれば良いというわけではなく、広告接触から何時間目までのインストールが本当にその広告の効果によるものだと推定されるかというのを、きちんと分析する必要があります。
もし興味がある場合は専門家に相談すると良いかと思います。(Moloco ではデータサイエンティストに都度分析を依頼しています)
結局は『インクリメンタリティ』で見るしかない
最後に、本当に VT がオーガニックや他の広告からの効果を奪っているだけではないのかを検証するために、インクリメンタリティ テストという手法があります。
昔からある手法ではあるのですが、どういうものかと言うと、ユーザーを 2 つのグループに分けて、
片方のグループには本来マーケティング効果ないダミーの広告を、
もう片方のユーザーには本物の広告を見せます。
ダミーの広告から発生したインストールは、広告そのものの効果ではなく、単にトラッキング URL を発火することによって、他の広告やオーガニックから奪っているだけのインストールだと推定されます。
その数字を、実際の広告で発生したコンバージョンから引くことで、その広告がどれくらいインクリメンタルなインストール増、インストールの純増に貢献したのかというものを測ることができます。
Moloco ではこのようなインクリメンタリティテストを一部のお客様に提供していますので、もし興味がある方がいらっしゃいましたらご相談ください。
(統計的に十分な量のデータと集める必要があるため、最低予算や期間、配信設定などの条件があります)
最後に一言
ここまで読んでいただいた方には十分伝わったかと思いますが、残念ながら現在のアプリマーケ業界では、もしかすると皆さんの『直感』的には『違和感がある』かもしれない設定が、変更不可能なスタンダードとなっています。
だからといって、直感を優先して Google や Facebook 広告を使わないというのは、皆さんのビジネス成長にとって正しい打ち手とは言えません。
同様に、SRN と違う設定をその他の広告媒体に適用し、異なる基準で意思決定を行うことも、ビジネスの成長にとって最適ではありません。
ファクトを理解し、与えられた条件下で、最も成長につながる打ち手を打つ。
マーケティングだろうが何だろうが、我々プロビジネス選手に課せられた義務は、常にそれしかないのです。
そんなかんじっすかね!
内容で間違ってる箇所や古い箇所がある場合は、お手数ですがエビデンスとともに教えていただけると嬉しいです🙇♂️