post IDFA時代にアプリマーケターの仕事はこうなる
前回の記事『アプリマーケティングとiOS計測の歴史』で、SKANが爆誕したもののまだ『MMP + IDFA』に比べると機能が不十分で、今後どうなるのかな〜?ってところまで書きました。
この記事ではそこから少しだけ発展させた、SKANが登場してから現在までアプリマーケティングがどうなっているのか、今後何を考えながらマーケ活動を行うのがよいのか、を考察してみました。
前回より抽象度高めだけど、アプリマーケターとして目指すべき方向を知りたい方はぜひ読んでみてください。
一言で言うと『目に見えるものだけを見ていてはダメ、全体を見れるようになるべし』というのが、全体通じたメッセージです。
SKAN登場以降、広告の獲得コストが(見た目上)上昇
さて、ちょっと前のデータですが、2021年にLiftoffが発表した「カジュアルゲームアプリレポート」によると、2020年3月と2021年2月の比較で、iOSのインストール単価(CPI)は$3.28→$4.82と47%増加しています。
また同期間に、AndroidのCPIは$0.92→$2.02と120%増加。これはiOSでIDFAがオプトインされたタイミングで、Android に広告予算が寄せられるようになった(競争が激化した)ことが要因だと分析されています。
IDFAが無くなったら広告効果が100%悪化する、ってホンマ?
IDFAが使えなくなったら獲得単価が1.5〜2倍に上がった(悪くなった)、って本当にそうなの?って疑問が湧きませんか?
同じ金額を、同じ媒体に支払って、同じぐらい広告を掲載したとき、獲得できたユーザーが半分になっちゃった…って、さすがに減りすぎだと感じません?
こういう直感的な違和感、大事です。
もちろんIDFAが無いことで、ターゲティングの精度は落ちます。デリタゲ(ダウンロード済のユーザーに広告を出さないようにすること)も効きません。ある程度は広告効率は悪くなります。
でも一方で、同じ配信面に同じ単価で広告を出して、同じオーディエンスにリーチできているとしたら、理論上は同じ数だけユーザーを獲得出来て、獲得単価も同じになるはずです。
つまり、IDFAが使えなくなったことで悪化した(見た目上の)広告効果の中には、本来の(アドテク的な意味での)広告効率の悪化分に加えて、本来は広告のおかげで増えたユーザーを捕捉できなくなった分、の2種類が含まれていると見るべきです。
本来は広告由来なのに捕捉できなくなった分のインストールは、トラッキングツール上は『オーガニック』の中に含まれます。
この世に真の『オーガニック』なんてものは無い
オーガニックとは『自然流入』と和訳されますが、"そんなものはない" というのが僕の持論です。
あなたのアプリを見たことも聞いたこともない人が、何故かあなたのアプリをストアで見つけてダウンロードする、なんてことが起きるはずがない。
ストアのオススメに出てた? それは高いクオリティのアプリを作ったプロダクトチームの努力と、ストアの編集チームの目に留まった / 気づいてもらう努力をした人の結果です。
たまたま検索で引っかかった? ASO対策の賜物じゃないですか。
ランキングで見つけた? ランキング上位にあったってことは、他のマーケティング活動が功を奏していたということですよね。
全てのインストールは、誰かの何らかの行動の結果です。当然それにはコストがかかっています。『オーガニック』というのは、単に "ツールで計測できなかった" ものの総称でしかないのです。
インクリメンタリティ(純増分)を見極めるべし
本来は、ツールで機械的に計測できるラストタッチのコンバージョン(最後に接触した広告だけに成果がつく)だけでなく、マルチタッチやオフラインも含めた効果測定、投資対効果の分析をしたいところです。
ただし現存するツールではそれを精緻に把握することは難しいですし、さらにはID規制(IDFAやcookie等)によって難易度は更に増します。
ここで重要になってくるのがインクリメンタリティという概念です。これは超ざっくり言うと、ある施策を行ったときとそうでないときで、実際どれだけ全体が伸びたのか?というものです。
例えばある広告媒体に新規に出稿開始して、(トラッキングツール上では)1ヶ月で1,000インストールが獲得できました。しかし、前の月よりもオーガニックインストールが200件減りました。
このとき、差分の800件が新規媒体による純増分だとするのが、インクリメンタリティの考え方です。
インクリメンタリティを評価する際の注意点
注意点がいくつかあります。例えば、この新規媒体をインクリメンタリティで評価して、他の(既存の)媒体をツールの管理画面ベースで評価すると、Apple to Apple🍎の比較にならないこと。
既存の媒体の中に、もしかすると、見た目の効果はすごい良いけど、インクリメンタリティは全然ないものが含まれてる可能性があります。(例: アドフラウド)
面倒なのですが、既存の媒体も含めた再評価が必要です。
例えば、ある媒体を一時的に停止してみて、トラッキングツール上での当該媒体のインストール数の減少幅と、オーガニック含む合計インストール数の減少幅を比較してみる、などです。
上記のアドフラウドの例なんかでは、その媒体のインストール数は減ったのに、合計インストール数は全く減らない(オーガニックや他の媒体が増える)といったことが起こります。
ツール上の成果だけ奪っていた、ということですね。
このテスト方法はシンプルではあるものの、統計的には必ずしも最高ではありません。テストの原則は『テスト項目以外の全ての条件を揃えること』ですが、広告がONの時期とOFFの時期を分けるというやり方だと、時期による変化が結果に影響してしまうからです。
(例えば、どちらかの時期に突然テレビで取り上げられたり、バズったり、競合アプリが出稿を強めたり、みたいなことが影響する可能性があります)
細かくなりすぎるのでこれ以上の詳細は端折りますが、きちんと "テストしたい項目をテストできる" 設計にすること(ランダムに対象グループを2つに分ける、とかが出来たら最高)や、十分な母数を確保することなど、『統計的に正しい』アプローチをすることが必要です。(完璧でなくとも) これが注意点その2。
知られていないアプリ広告の波及作用
こういう風に書くと、オンライン広告はオーガニックなり他の広告媒体なりから成果を多少奪っている、つまり、インクリメンタリティは計測ツール上の成果よりも常に小さい、と思われる方もいるかもしれません。
しかしその反対の事象、つまり、広告出稿のインクリメンタリティが『計測ツールの管理画面の数値より大きくなる』という興味深いケースがあります。
情報源は、ASOに(僕が知る限り)日本一詳しい広告代理店・リバティーンズ社の方(仲良し)。
彼らのクライアントが、Mから始まる某DSPで、1日200-300インストール程度のユーザー獲得を新たに始めたところ、アプリストア内の検索順位が上がってオーガニック流入が伸びたというのです。
この秘密を解き明かすため調査隊は密林の奥底に向かい、こんな記事をWall Street Journalで発見してきました。(普通に公開されてる)
Appleがアプリストアの検索結果を支配して競合を妨害している、というタイトルの記事なのですが、この中にアルゴリズムの説明が出てきます。以下引用。
つまりこれは謎の挙動なんかではなく、検索順位に最も影響を与える因子の1つであるダウンロード数が増加したため、ランキングが上がり、その結果(このアプリに関しては)オーガニック流入が増えたり、広告のCVRが上がった(〇〇カテゴリ●位、って表示がより魅力的に見えるようになった)というわけです
アプリマーケターに一層求められる『俯瞰力』
このように、計測が重要であることは変わらないですが、1つの施策の効果がより不完全・間接的な形でしか計測できなくなってきています。この流れは恐らく今後も続きます。
そうすると今後は、間接的なところまで含めて施策の効果を捉えにいく、より統計的かつ総合的なアプローチが必要になるでしょう。
去年US出張のときに話したアプリのトップ企業は、マーケチームの中にデータアナリストを複数入れて、計測ツールに依存しない分析体制を構築していました。
こういったところに投資できる企業は、他に比べて正しい投資の意思決定が出来て、継続的にビジネスを伸ばしていけるんじゃないかと思います。
そうじゃないところは…(察し)
また、自社で全て揃えるのが難しいという方には、トラッキングツール各社もインクリメンタリティ分析の機能を出していますし、前述のリバティーンズ社はV.O.Xというツールで、アプリの検索広告とASOを横断した分析・運用ができる機能を提供しています。
まずはこういったソリューションをチェックして、取り入れやすいものからでも試してみることが重要です。実践にまさる学びの機会なし!
(紹介希望の方はX @tatsuosakamoto 等から気軽にDMください)