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注目のフィンランド初スタートアップWolt・Smartly.ioのCEOが語る急拡大のリアル #Slush2019

※この記事は弊社Smartly.ioが自社blogで公開している記事 "Slush 2019: Founding CEOs of Wolt and Smartly.io Reflect on the First Years of Expansion" を翻訳したものです。

2019年度のSlush(※)では、Smartly.io社のファウンダーでCEOの Kristo Ovaska (クリスト・オヴァスカ) とWolt社CEOの Miki Kuusi (ミキ・クウシ) がFounder Stage (ファウンダー・ステージ) にて対談し、両社のここ数年の急拡大を振り返った。

※Slushとは : 北欧・フィンランドの首都ヘルシンキで毎年開催されている、世界的なスタートアップイベント。元々300人程のイベントから始まり、現在では世界中から2万人以上の人を集めるほどのイベントへと成長している。日本版のSlush Tokyoは2020年のイベントより「BARK」とリブランディングされることが発表された

ファシリテーターには、コミカルにコンピュータの世界を表現した絵本『Hello Ruby (ハロー・ルビー)』の著者、 Linda Liukas(リンダ・リューカス)を迎えた。

Kristo、Miki、Lindaは約10年の長い付き合いがある。LindaとKristoは2009年、学生起業家組織のAaltos (アールトズ) の創立メンバーとして知り合った。さらにMikiをコミュニティに加え、2011年のSlush立ち上げとなった。

それから今日まで、Kristoは3社の会社を起業したが、2社はKristo曰く「惨敗」の結果に。しかし3社めのSmartly.ioは、2019年11月現在、創業から6年を迎えた。350名強の従業員を抱え、各国に16の拠点を設置している。

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2014年にはMikiがWolt社を創業、躍進を遂げて現在では19カ国で600名の従業員を抱える企業となっている。

Woltはフィンランドのヘルシンキで創業し、フードデリバリーアプリを開発するテクノロジー企業。(Wikipedia)

Lindaは世界的な運動として、260の都市で若年層の女性にプログラミングを教授するRails Girls (レイルズ・ガールズ) を設立し、絵本作家としても成功を収めている。

今回のポストでは以上3人の対談をハイライトする。実際のセッションの様子は下の動画をチェックしてほしい。

正しく採用することが継続的な事業拡大の鍵

ここ数年、Smartly.io社、Wolt社、両社とも急速に採用スピードを上げている。Smartly.io社は12ヶ月ごとにチーム規模を約2倍に拡大させている。Wolt社は昨年の頭には250名だったが、年末には総勢700名を雇用するまでに。

「採用を正しく行うことが、おそらく最も重要なことです。」Kristoは語る。

「まずは自分の協同創業者を初めとした周囲の人間から、正しい関係を築くことです。しかし難しいのは、企業を拡大させていく際に、彼らの抱える問題を解決したり、採用を行ったりしながら、カルチャー (企業文化) を守っていくことなんですよね。」どんどん人を雇いたい、とプレッシャーを感じたとしても、採用の水準は高く保つべきだとKristoは語る。

「Smartly.ioでは、採用は向上のためにするのであり、人任せにするためではありません。新しい人材は、企業価値を高め、そしてゆくゆくはチームを組織するようになるために採用されるのです。」

一方Mikiは「弊社の場合、昨年12ヶ月で約500名採用しましたが、こうした採用決定は、非常に小さな単位のグループで下されたものです。」と語る。Wolt社は同時に複数の国々でチームを組織している。Mikiが強調するのは、12名で構成される、採用から配属、トレーニングまでををも行うExpansion (エクスパンジョン = 拡大) チームの重要性だ。

「組織の成長スピードの限界を引き上げたんです。」とMikiは言う。「本当に組織の規模を早く拡大したいのであれば、初めはゆっくりと、そして徐々に大きくしていくことですよ。みんな、なるべく早く拡大したがるのですが、拡大スピードは徐々に上げていくことが上手なやり方です。基礎がしっかり出来上がっていれば、80名を250名にするのも、250名から700名達成するのも、そう難しくはありません。」

Kristoの見解では、限界を超えることなしには企業を年100%以上拡大させることは出来ないとしており、そのため彼はWolt社の急成長を喜ばしく思っている。「Mikiの功績は驚くべきものですよ、」とKristo。「Mikiの学んだことは、我々のお手本にさせてもらいます。」笑顔で付け加える。

急成長しているSmartly.io社だが、Kristoは「急な拡大をしている間に乱れてしまったものを修正するために、採用ペースは落としました。結果的に、将来は拡大し続けられるようにするためです。」と述べる。

「私が常に懸念していることは、従業員が企業拡大のフェーズを乗り切れるか、ということなんですよね。」Mikiは述べる。

「企業拡大中は、全ての拠点で十分なペースの採用ができるとは言えませんから。同時にたくさんの国を拠点に加えようとしているときは、きちんとしたサポートを機能させることが特に難しくなってしまいます。従業員の面倒は良くみてあげたい、と思っても、非常に早いペースで拡大させる際には、なかなか両立が難しいことがあります。」

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「早すぎないように、しかしペースを落としすぎてもいけない。こういう葛藤が常にあります。バランスを取るのは大変ですよ。」

カルチャーの変化について備える

採用・配属・人材といったトピックは、事業拡大時においては正しく行うことが非常に難しい課題となる、というのがMiki、Kristoの共通見解だ。カルチャーを育むことは、時には変化や困難を伴う挑戦ともなりうるが、企業成長を保つ助けにもなる。

「Smartly.ioが成功を収めたのは、カルチャーのおかげです。」とKristoは語る。

「特に、我々が "Humble Hungry Hunter (謙虚かつ貪欲なハンター)" と呼んでいる精神がそうです。顧客の意見に対しては謙虚に耳を傾け、問題解決には絶大な情熱を注ぎ、ニーズに応える商品やサービスを生み出す、ということです。」

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Kristoによれば、Smartly.io社では常にカルチャーは重要だと認識している。しかし、企業を拡大する際には、カルチャーの保持が難しいということもまた事実。「組織レベルで、カルチャーを育むために様々な手を尽くしています。」とKristo。

「我々のカルチャーと価値を統合し、採用や配属といった活動に適用しました。さらに、カルチャーについてはハンドブックにまとめ、チーム全体でもそれについて話し合うのです。」

Kristoが発見したのは、カルチャーのハンドブックをWebサイト上に公開することで、それに賛同する人々の関心を集めることができるということだ。「経営者自身が自己研鑽できる効果があるのです。」とコメントした。

Wolt社にとっても、カルチャーは重要なものである。19の国々に拠点を持ち、Slackを利用して各オフィスとの連携を取りながらも、毎年オフサイト (社外で行う会議) を開催するのがWolt社の恒例となっている。

「第一回めのオフサイト、Wolt One (ウォルト・ワン) は、9月に開かれました。総勢500名の従業員が、一堂に会したのです。」Mikiは語る。

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「企業拡大に際しては、自分の会社が変わっていくことに不安を覚えるものですし、自分はもう同じグループの一員ではないのでは、という気持ちになります。適切な方法で採用活動を行っている限り、違う国々にいる従業員の本音を聞くことで、新しい発見や驚きがあります。」

「オフサイトは非常に重要な役割を担っています。」とKristoも続けてコメント。

「最も価値のあることが、会議では得られます。そしてその成果はカルチャーや企業価値を育て、言語化するために利用されます。カルチャーについては事前にスピーチを準備したりもするのですが、実際にはオープンなディスカッションやワークショップを通じて全員が貢献できるようにしていました。」

人々をカルチャーの言語化に巻き込むことで、オーナーシップを喚起することになる。

「これが我々のやり方だ、と言うだけでは、皆が賛同してくれるとは限りません。そこで、一緒にカルチャーやビジョンを創り上げて行きましょうよ、と、こう呼びかけるのです。そうして一緒に時間をかけ、努力していくうち、本当に賛同してくれるようになるし、自分のものにしてくれるようになります。ディスカッションをシェアすることは、企業拡大中であっても共通のカルチャーを築き、企業価値を保つために非常に重要なことなのです。」

チームが成長するにつれてカルチャーが変化することは多くの企業が懸念していることである。Smartly.io社では、企業と共にカルチャーもまた進歩するべきであると考えている。

「組織として、こだわっていきたいと思う点があります。お客様第一になること、最大限の学びを得ること、そして風通しが良く、成功するために助け合うということです。こうした点にはストイックですし、全社で行われる必要があると考えています。」というKristoの意見だ。

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「多くのオフィスを持つことのメリットは、新しいことを学んだり創り上げたりすること、さらには学びをグローバルに活用していく、という点にあります。企業のコア・バリューに重点を置いていれば、社員に自らの意思で行動することを推奨できますし、それによって常にフレッシュで革新的でいられるのです。」

CEOとして企業拡大に関わるということ

MikiとKristoは、さらに自身のCEOという立場から企業拡大に関わるという役割について話した。

Miki曰く、CEOにとって最も重要なことは、迅速に学ぶということだ。「拡大に際して、企業は半期ごとに変化を迎えますし、たくさんのことを学びなおさなくてはなりません。」

Kristo、Miki両者が強調することは、まずはしっかりと企業の人材を適材適所に配置したうえで、変化を迎えるべきだということだ。Mikiの視点では、CEOの立場として事業拡大を進める際は、個人が抱える心配事から、組織内の断絶まで、問題を一つひとつ解決していくことだという。

MikiがSlushのCEOだった当時、組織内の全ての事象に関与しようとしていたが、その際リーダーシップというものについて1つのアドバイスを受けた。「起業家として成功し、自分の企業を興したいなら、自らを余剰人員とせよ」

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「CEOの仕事は、全てのことに携わることではない。むしろ、自分がいなくても潤滑に運営可能な組織を創り上げることだと。」

Kristoは、上記のトピックに取り掛かるためのポイントとして、企業内部でのリーダー育成に投資を行うことを挙げた。「内部でリーダーを育成することは、企業が行える、最も影響力の強いことのひとつです。時には、外部からマネージャーを雇うのもスマートでしょう。しかしその場合、常にリーダーシップのポテンシャルがある人材を採用する努力をし続け、彼らが役割を果たせるよう養成し手助けしなければなりません。」

「自分の酸素マスクを第一に付ける」

トークの締めくくりとして、Lindaはもっと個人的なトピックを振った。KristoとMikiにとって、リーダーとしてどのように自らを成長させているのか。

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二人のCEOが共通して挙げたことは、健康とワークライフバランスである。「事業の委任がうまく行っていて、ベストな人材を然るべき場所に配置させていたとしても、CEOが消耗してしまっていては、企業を大きなリスクに晒すことになります。」Kristoは語る。

「特に企業を成長させる際、CEOが疲労困憊していては、重大なリスクを招くことになります。」

消耗を防ぐためにKristoとMikiが勧めることは、事業拡大のフェーズをマラソンのようなものと捉えることである。「一日の稼働時間は、十年先もそのペースで継続できるようなレベルに設定するべきだと、自分に言い聞かせています。」とKristo。「ですから、疲労を感じていたり、週末でも疲れが取れない、というようなときは、何かがおかしい、ということになります。」

Mikiは、Wolt社が急成長し始めたとき、マラソンの心境でいるべきだと痛感したという。「スタートアップ時期はスプリントのようなもので、24時間・年中無休で稼働していましたが、それではワークライフバランスを取ることはとても大変になってしまいます。時間と闘うことになってしまうからです。プロダクト・マーケット・フィットが見つかってからは、マインドセットを "闘う" モードから変えるべきです。」

「仕事終わりの夜の時間や、週末を大事にすることを学びました。1日中フルでオンラインでいるべきではありませんし、エクササイズの時間を取ることも大事です。こうしたことは最初の頃は分かっていませんでした。徐々に学んできたことです。」

「それは非常に大事ですよね、」相槌を打つKristo。「僕には3人子供がいて、4人目が生まれる予定です。飛躍的な成長を遂げる企業のCEOという立場と、家庭で大きな責任を担うということを両立させるのは、簡単なことではありません。」

Kristoは、常に3つのことを大事にしている。第一に、メンタルと身体の健康を保つということだ。どちらか一方でも欠けてしまうと、仕事で役に立たなくなってしまう。第二に、家族をよくケアすること。第三は、常に学び続けることで、学びを得られるような素晴らしい人材や、一緒に働いていて楽しいと感じられる人間に囲まれているようにすることだ。

Lindaは最後の質問として、この疑問を投げかけた。「創業当時から、KristoとMikiの二人が変えた考えとは?」

Mikiの答えは、あまり理想主義にならなくなった、というものだ。「企業を立ち上げ、しかも拡大させるということは簡単ではありません。だからこそ、僕はあらゆる起業家に大きな敬意を払っています。」

一方Kristoは正反対の答えを唱える。「僕は企業立ち上げや、プロダクト・マーケット・フィットが難しいとおもっていました。ですが今にして思えば、拡大させる方が難しいです。しかしだからこそやりがいがありますね。新しいことを学べますし、日々新たな挑戦があるからです。」

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