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グローバル企業のマネジメント、機能別・地域別のどちらのスキームでやるべきか?

グローバル企業の日本・アジア展開をしている方や、逆に日本からグローバル組織を作ろうとチャレンジされている方へ。

※ グローバル企業というのは、"日本国外でビジネスをしている" というだけでなく、"複数の国・地域にまたがってビジネスを展開している" 企業のことを当記事では指しています

グローバル企業で働いていると、しばしば

組織を "function" で切るのか "region" で切るのか

という議論になります。

例えば、日本・中国・韓国にセールス (新規営業) とカスタマーサクセス (既存顧客担当) がいて、この人たちをマネジメントする場合↓↓

素材制作用 坂本達夫のスタートアップ酒場 (5)

Function-based Organization

ファンクション、つまり役割で切って

✅ 日中韓のセールスは、APAC のセールス責任者 (肩書きは一旦無視) にレポート
→ APAC のセールス責任者は、グローバルのセールス責任者にレポート
✅ カスタマーサクセスについても同様

とするのか、

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Region-based Organization

リージョン (地域) やマーケット (市場) で切って、

✅ 日本のセールスとカスタマーサクセスはどちらも、日本のカントリーマネージャにレポート
✅ 中国・韓国についても同様
→ 日中韓のカントリーマネージャは、APAC の GM (ジェネラルマネージャ) にレポート
→ APAC の GM は、EMEA, US の GM とともに、global の VP にレポート

とするのか。(GM, VP あたりは違う肩書きのこともあるよ。察して)

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大きくこの 2 つに分かれることが多いです。

自分自身の経験

直近でいうと、Smartly は function-based でした。僕自身の肩書きは Head of Sales, Japan で、カントリーマネージャ風な顔をしてはいましたが、日本のカスタマーサクセスは僕のレポート下にいませんでした。

AppLovin と、その前の Google でも function-based でした。厳密にいうと、日本のカントリーマネージャ・日本法人の代表はいましたが、彼らは demand side (広告主サイド) のマネージャという位置付けでした。僕は supply side (媒体サイド) だったので、レポートラインを辿っても日本のカントリーマネージャには行きつかず、APAC とか global のチームリードにレポートしていました。

(Google Japan には、レポートラインを辿ってもカントリーマネージャに辿り着かない、っていう人がけっこうたくさんいました。)

一方、現在働いている Moloco は Regional-based な組織です。日本の売上は新規・既存ともにカントリーマネージャが責任を負っていて、その上に APAC のビジネスサイド統括、その上に global、そのさらに上が社長です。

global からも APAC からも「日本のことは日本チームが一番よく分かってるはずだから、何をやるべきか自分たちで決めて、助けが必要なときは言ってくれ」とよく言われます。とてもやりやすいですが、一方で、例えば国・地域をまたいだセールス同士、カスタマーサクセス同士のナレッジ共有・連携などは、気をつけないとおろそかになってしまうリスクがあります。

どう使い分けるのが良いのか

どっちも経験してきたけど、自分の中での現時点での結論は

✏️ 立ち上げ・グロース期
✏️ 特殊事情が多い市場

region で切るべき。逆に、成熟していて、global / HQ / US と同じマネジメント手法でも問題がないのであれば、function-based でも良いかもしれない、というものです。

function-based management の最大の利点は効率性です。本社なり US なり、一般的には最も成熟している市場でのマネジメント方式をそのまんま他の市場にも適用することで、仕組みや制度やツールなどを『再発明』しなくてもよいからです。営業などビジネス面以外にも、例えば採用や評価といった管理系にも同じことが言えます。

一方、成熟していない市場で function-based なマネジメントをすると様々なデメリットがあります。ぱっと思いついたのが下記。

👿 region レベルの責任者が不在
👿 region レベルでの最適な投資ができない
👿 小さい region はリソースを割いてもらえない
👿 評価も不利になる

それぞれ解説します。

region レベルの責任者が不在

一言でいうと「日本の売上に誰が責任持つんや?」ってことです。さらには

region レベルでの最適な投資ができない

これがビジネスを成長させる上で大きな障壁になります。

外資系企業のほとんどはいわゆる『ジョブ型採用』をしているので、job description に規定されていない業務は本来はやる必要がないし、評価がされないことが多いです。

なので、例えば

既存顧客を対応するリソースが足りていなくても新規営業担当はそこをサポートしない (しても見返りがない)

とか、

新規獲得にリソース割けばもっと全体売上が伸びる場面でも、既存担当が手助けしない (するインセンティブがない)

とか、そういうことが起きがちです。

彼らの上司 (APAC のセールス責任者、APAC の CS 責任者、など) も、あくまで function のマネージャなので、自分の部下に "数字にならないこと" をやらせたがらないのです。

日本人の多くはボランティア精神に溢れているので、『日本チームにとって必要だから』って、評価されなくてもボーナスがなくても必要なことをやりがちです。それ自体は美しいのですが、評価されない (ときに長時間の) 労働に繋がったり、メイン業務に割くリソースに悪影響が出てしまったりするので、常態化するのは好ましくないでしょう。

拠出したリソースや、あげた成果に対しては、見合った報酬があるべきです。そうでなければ、そのマネジメントは長続きしません。

これが Region-based Organization になっていると、日本のカントリーマネージャが日本全体の売上・利益の責任を持つので、『日本全体の売上を最も効率よく伸ばすためには、今なににリソースを割くのが最適なのか』を考えることになります。

人事権があれば、例えば新規担当のメンバーに『評価の 25% を割り当てるから、既存のサポートも頼む』というような調整が出来ます。
人事権がなければ、自らのリソースを投入するとか、外注するとかして、なんとかやりくりすることになります。笑

小さい region はリソースを割いてもらえない

Function-based の場合、例えば APAC の Sales Head は "より成果が上がりやすい国" に、global の Sales Head は "より成果が上がりやすい地域" に、リソースを配分しようとします。

その結果、例えば『成長率は高い』『潜在的な市場は大きい』けど『立ち上げに時間・リソースがかかる』『顕在化した市場はまだ小さい』マーケットは、なかなかリソースを割いてもらえないことになります。

日本市場って言語的にも商習慣的にも他のマーケットと違うことが多いので、『潜在的な市場は大きいんだけど、時間とリソースをめっちゃ食う』マーケットになりがちです。

☑️ プロダクト (UI とか) や資料や契約書をローカライズしないといけない
☑️ 代理店向けのプロセスを作らないといけない
☑️ セールスサイクルも倍ぐらい長い
☑️ 国内事例が無いと導入してくれない

あと 200 個ぐらい挙げれるわ。

なので、本気で立ち上げようと思うなら、全権委任できるカントリーマネージャを頑張って採用して、『お前にこれぐらいの予算と時間を預ける、やり方は任せる、サポートはする、頼んだ!』ってやるべきだと思うんですよね。任せる側、本社側は、リスクの上限は引いた上で、そこまでは絶対コミットする。

逆に任された側も、いつまでにどこまで行くのか、経過はいつどうやって評価するのか、を明示した上で結果にコミットする。

余談ですがこれって、いわゆるイノベーションのジレンマ、新規事業にリソースを割けない大企業でも、同じですよね。

評価も不利になる

Function-based の場合、基本的には現場はどの国でも同じ仕事をやっているので、横並びで評価されることが多いです。例えば、新規営業だったら新規売上や件数、CS だったら既存顧客からの売上やアップセルの金額、などです。

ですが当然市場によって状況は異なります。例えばセールスサイクルや 1 社あたりの売上規模といった市場環境、マーケ部門からのサポートがどれぐらいあるかといった社内事情、などです。

英語で成功事例がたくさん出てて、1 社獲得したら平均 1,000 万円の売上があって、平均 3 ヶ月で獲得が決まる米国と

日本語に機械翻訳された成功事例がいくつかあるだけ、1 社平均 200 万円の売上にしかならない、獲得まで平均 6 ヶ月かかる日本と

営業の成果を『売上』という単一指標で測れるのか?
測れないよね?

でもけっこうこれが単一指標で決まっちゃってるパターンがあるんですよ。

仮に目標を調整するとしても、全員にとって納得感のある、合理的な目標をセットするのって超難易度高いです。

上記と同じく、新規事業と既存事業、目標と評価どうするのがいいのか、っていう問題と根っこは同じですね。

というわけで結論

繰り返しですが、新しい市場に進出する際は、全権委任できるカントリーマネージャを頑張って採用して、『お前にこれぐらいの予算と時間を預ける、やり方は任せる、サポートはする、頼んだ!』ってやるべきだと考えます。任せる側 (本社側) は、リスクの上限は引いた上で、そこまでは絶対コミットする。

任された側は、いつまでにどこまで行くのか、経過はいつどうやって評価するのか、を明示した上で結果にコミットする。

異論は認めます!色々なケース・考え方があると思うので、ぜひ色んな方のお話を伺ってみたいです。ぜひコメント、SNS でのメンション、DM などお寄せください!

ハイブリッドな地域が出てきた場合の折衷案

なお余談ですが、例えば

東南アジアにはけっこう前から展開しててそこそこ成熟してきている中で、日本とか中国みたいな新しい市場に進出する

みたいなパターンの場合、すでに APAC レベルでは Function-based Organization になっているんだけど、新しい市場のマネジメントをどのスキームでやろうか...って悩むかと思います。

(日本だけ Region-based でやろうとすると、"日本カントリーマネージャの上司" は、APAC セールスヘッド (既存ビジネスは見ていない) にしてもいいの??という議論になる)

個人的には、もし APAC を Function-based でマネージし続けるのであれば、新市場は既存のスキームの中に入れず、社長 (または CxO) 直下にするのが良いと思います。そのほうが新市場にとっての正しい意思決定、スピーディな意思決定が出来るからです。

仮に複数の市場に同時に進出しているのであれば、『新市場進出』みたいな部門を地域横断で作ってもいいかもしれないですね。ノウハウの共有や評価など、出来るかもしれないので。新規事業部門、みたいな感じで。

採用中です!!

そんな Region-based な、日本チームの裁量がめちゃくちゃ大きい Moloco の日本チームでは、アカウントマネージャ (既存の広告主・広告代理店さんを担当してビジネスを一緒に伸ばすお仕事) とマーケティング責任者 (直接的なお客様とのやりとり以外の全ての手段で、ビジネスを伸ばすお仕事) を募集しています。

5 年後・10 年後に今の GAFA になるような会社を作る、非常にチャレンジングでやりがいがあるお仕事です。少しでも興味がある方は、サイト (GreenHouse) から応募いただくか、僕まで直接ご連絡ください!

Moloco についての説明はこちら

ぼくの連絡先
⭕️ Twitter @tatsuosakamoto (DM 解放してます)
⭕️ Facebook
⭕️ LinkedIn

そんなかんじですかね!

2021.12.01 追記

元 AppsFlyer Japan カントリーマネージャで、現在 Smartpay カンマネの大坪さん @tsuboyannaoyan の Facebook 上でのコメント

このどちらでもない、というかこれらを融合させたマトリクスオーガニゼーションというのもあります。例えば日本のセールスディレクターは日本のカンマネにもレポートするし、ファンクションのトップにもレポートするような形です。
どちらにもレポートしなくては行けない分手間はかかりますが、たつおさんのまとめてるリスクは一定程度低減できます。ちなみにAppsFlyerはマトリクス型でした。もちろんマトリクス型にもデメリットはあるんですけどね。
経験的には組織が小さい時にはマトリクス型がワークする気がします。縦糸だけより、横糸だけより、縦糸も横糸もあったほうが生地が強くなるのと同じかな。
日本企業でもトヨタ、花王とかが採用してます。

他にも、Cosmose 高橋さんの Facebook ポスト上で議論が超盛り上がっています。ぼくの note なのに、僕のタイムラインより盛り上がっている。笑

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Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)
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