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僕のエンジェル投資のスタイル - 契約編

外資サラリーマン & エンジェル投資家の坂本達夫です。記事を読み始める前に、まず僕の YouTube チャンネル『スタートアップ酒場!!』をチャンネル登録してきてください。

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初めてのエンジェル投資、分からないことが多い!

色んなところでエンジェル投資をしてるって公言しているせいで、時々、はじめてエンジェル投資をする方・これから始めようって方から相談を受けます。

確かにちょっと難しいし、学校では習わないし、明文化されていないし、あまりパブリックになっていない情報ですよね。多分いろんなところでいろんな人が違うお作法をしている。

この記事を含む 2-3 回シリーズで、累計 50 件強のエンジェル投資を通じて蓄積してきた自分の知見を吐き出そうと思います。あくまで個人の考えなので、法律や業界慣習を踏まえた上で、皆さん自己責任で自分の行動を決めてくださいね。

1 回目のこの記事では、投資契約書の確認の仕方と、プロラタ条項についての僕の考えを書きます。

投資契約書どれぐらいきちんと確認する?

よくある質問①『契約書 (投資契約書、株主間契約書など) に関して、読んでみて問題ないように見えたのでパッとサインしたんですけど、何か注意しないといけないことがあるのか?』

もちろん契約なので原則からいうと、問題ないか全部確認した上でサインするべきではあるんですが…

『ヤバそうな条項がなかったら大丈夫』というのが、エンジェルとスタートアップの間だと一般的な温度感かなと思います。特にエンジェルラウンドの時は契約書もさほど複雑ではないことが多いし、J-KISSなどテンプレ化されてるものもあります。

起業家「J-KISSでオネシャス」
ぼく「魔改造してへんよね?」
起業家「してないっス」
ぼく「OK、サインするわ」

よくあるやり取り

余談ですが、EV (East Ventures) の契約書とかめっちゃシンプルですよ。必要最低限のことしか書いてなくて、変な制約とかもない。ステージが進むともっと複雑化するのかもしれないですけど、少なくともエンジェル・シードラウンドぐらいまでは、EV はファンドという体裁をとった実質エンジェルみたいなものだと勝手に思っています。笑

ごちゃごちゃ言わない

個人的なスタンスは 2 つ。1 つは、極力ごちゃごちゃ言わない。僕が出す金額はそんなに大きい金額じゃないので、同じラウンドで出資する株主の中でも、最小持分であることがほとんど。そんなやつがごちゃごちゃ言ってると「うっせえ」と向こうは思うはずなので。

なので基本的には、より大きい金額を出している人たち、例えば経験あるエンジェルの人や VC が入っていて、その人たちが OK と言っている条件であれば、基本ぼくも OK だよ、というスタンスを僕は取ることが多いです。ちゃんと契約内容を起業家フレンドリーに導いてくれそうなエンジェル・VC が同じラウンドで入っているかは、そういう意味では 5% ぐらい気にしますね。

起業家不利な契約にならないよう注意する

一方でもう 1 つは、自分にできる範囲で、起業家に不利すぎる契約にならないように最低ラインの注意を払うようにしています。

特に社会人経験が浅い起業家の場合は、起業家に不利な契約になってしまうというケースがたま〜にあって。不必要な義務がすごく多いとか。これはさすがに投資家に有利すぎて、起業家に不利じゃない?みたいなやつが時々ある。

大体、契約ってネガティブなことが起こったときの対応を書いているのがほとんど。そのときに起業家は痛みを伴う、一方で投資家はほぼノーリスクじゃねぇかこれ、みたいなね。投資した金額以上に責任を負わないというのが資本主義の原則だけど、投資した金額分のリスクさえも負わないような契約を見ると、なんでスタートアップ投資やってるんだろうこの人は、って思っちゃいますね。

リターンの期待値を高めるという行動原理には則っているんですが。投資家にはそういうインセンティブ構造があるんだよ、というのは起業家側も理解しておいたほうがいいですね。

原理原則からいうと、自分も投資家なので嬉しいはずではあるんですけど、一方で起業家が不幸になるのを見るのは嫌じゃないですか。何かあったときに。

なので、「この条項は起業家目線ではリスキーじゃない?」とか「これどう思います?」みたいに、その部分だけ切り取って、例えば契約に詳しい人とか、起業経験ある人に聞いたりとかすることはあります。気になるところがあったら気をつけるかな、ぐらいですかね。

契約って力関係が強く反映されるものなので、投資家が優位の場合、契約書もそういうふうにできてしまう場合がある。もちろん、力がある投資家や VC がみんな邪悪というわけではないですよ。

とはいえ長くやってると、悪魔みたいな契約書を出してくるところが時々あるので、そういうのとかは気にするようにはしていますかね。サインしちゃった後から気づいても、巻き戻しが難しいですから。

反社

あと例えば、反社会的勢力が株主にいたときにどうするかみたいなのが一切書いていない、とかね。いわゆる反社条項。イノセントだから、まさかないでしょと思っているんだろうけど、調査もしてないのにシロだと過信するのは見方によっては怠慢だし、今はシロでも将来闇堕ちしちゃう可能性だってあるわけですよ。

仮にいたことが分かった場合に、「出資時の金額で買い戻せます」という一文が入っていないことによって、めっちゃ揉めるとかってあり得るわけじゃないですか。シリーズ C とかまで進んでいて、「俺は売らないぞ」と反社のやつに言われたら、ヤバい上場できない、みたいなことになり得ちゃう。

なので、そういう気になりそうなところだけ確認するとかは、やってあげると喜ばれるかなという感じですかね。僕は法律が専門ではないので、あくまで出来る範囲で、ですが。

優先株ってなんぞ

よくある質問②『ラウンドによって契約条件が違うとかもあるんですか?』

全然あります。特に VC が入ってくるようになると、優先株とかを使い始めると思うので。ここでは詳しい説明を省きますが、簡単に説明すると、IPO じゃなくて M&A での EXIT になったときとかに、普通株主よりも先に優先株を持っている人たちがキャッシュを持っていく、残りを分配する、みたいなやつです。

優先株主はズルいみたいな話ではなく、大きいリスクを取っている見返りとしてリターンのところで調整を入れる感じですかね。そのときに出資金額の何倍までを持っていくのかという倍率と、分配権があるのかないのか、というのが主な変数です。

例えば、会社が 10 億円で買収された場合。優先株の投資家が先に持っていきます。例えば 2 倍の優先株で 2 億円投資した投資家は、10 億円のうち 4 億円のリターンをこの時点で得るわけです。

残り 6 億円を、株の持分比率に応じて分配することになります。このとき、先にリターンを取った優先株主なんですが、更に持分に応じて分配してもらう権利があるかどうかというのがあって、権利があるものを『参加型』といいます。「1倍・参加型」「2倍・非参加型」とか言ったりします。

倍率と参加権の有無の組み合わせで、優先株の条件が決まってくるのですが、油断すると、めっちゃ VC が持っていくやん、創業者に全然残らへんやん、みたいになりかねません。当然ここは条件交渉のポイントになります。そのタイミングぐらいで専門の人、わかる人にちょろっと見てもらってもいいかもしれないですね、創業者・経営者の方は。

優先株でいうと、EXIT したときの株の持分とリターンの配分が同じじゃなくなる可能性がある、ということですよね?

おっしゃるとおりです。

優先株発行時、既存株主の挙動

今いる株主は、新しい株主が入ってくる際に、すでに結んでいる投資契約に対しての覚書、あるいは新規の契約って形で、まき直す感じになるんですか?勝手に決まっていっちゃう?

実態としては勝手に決まる形に近いです。ただ当然、新株発行というやつは既存株主の同意が必要な事項ではあるので、株主総会で決議されます。「資金調達することになったので、株主総会の同意をお願いします」と、委任状にサインする儀式が定期的にあります。

儀式とか言っちゃダメです。ルールに則った適切な手続きです。

追加の資金調達を通じて、新しい投資家が入ってきて、自分の持分が希薄化する、シェアが減ることを、株主総会で容認しているわけです。出資した時点でそういう運命を受け入れていることになります。

プロラタ条項

シェアが減るのが嫌な投資家は「プロラタ」という条項を投資契約書の中に入れたりもします。例えば次の資金調達で、そのままだと持分 3% から 2.5%に希薄化しちゃいますという場合、3% を維持できる株数、0.5% 分を、新しく調達するときの株価で買い増す権利、っていうコンセプトです。

シェアを維持したい投資家のためにある条件ですね。

そうです。個人投資家だとあんまりないとは思います。というのも、ステージが上がって株価が上がっちゃうと、普通は、個人ではなかなか手が届かない株価になっていくので。

一般的には VC が、例えば最初に 10% 出して、IPO のときまで 10% ぐらい持っていたいよねと。かつ、イケてる会社に対しては株価が上がっていても、2回目、3回目とシリーズが進むときに『おかわり』つまりフォローオン、追加出資する予算を VC は持っていたりします。

追加出資があり得るのかどうか、最初に出資してもらう前に確認しておくといいかもしれないですね。

そういうところは最初の契約のときにプロラタの条項を入れて、いい会社、つまり EXIT が狙えそうだということが時間を追って証明されていってる会社に対して、シェアを維持できる『権利』を確保しているわけです。

坂本さんは、シェアを維持したいみたいな意志を持つ場合はあるんですか?

僕はないですね。最小株主という立場でも十分勉強させてもらってますし、あと現実的に小粒エンジェルでは出せない金額に上がっちゃうことも多いので。

でも、本当にお金に余裕があったらやりたいんですよ。

失礼ながらスタートアップ投資を競馬に例えてみます

不快に感じる方もいるかもしれないですが、分かりやすいので競馬に例えます。エンジェルからシード、シリーズA、B、Cと進んでいくのって、万馬券つまり倍率 100 倍から、50 倍、10 倍、2 倍、と馬券の倍率が変わっていくみたいなイメージなんですよね。

レース直前やスタート直後、最初は 100 円で万馬券を買いました。第三コーナーを回ったあたりで良い位置どり、その時点で倍率 100 倍じゃなくて 10 倍になってます (勝率がスタート直後と比べて 10 倍ぐらいになったということ)、馬券は今は 100 円ではなく 1,000 円です。買いたいですか?

レースの途中で動的に倍率が変わり、ベットできるチケットサイズも変わって、種銭と関係当事者の同意があれば追加で・あるいは途中からでも参加できるギャンブル。

で僕の場合は、最初の 100 円が 100 倍になるだけで金銭的リターンとしては十分で、さらに 1,000 円出して 10 倍に増やしたいみたいな経済的モチベーションはあまりないです。職業として投資家をやっている方とは、そこは明確に違うと思います。職業が投資家の方は、より勝率が高い馬が目の前に現れたときには、買う『権利』は少なくとも欲しいと思うんじゃないですかね。

あと実際には、100 円 1,000 円ではなく、100 万円 1,000 万円って世界ですからね。そんなに種銭もないです。笑

サイズの大きなファンドは逆に、100 万円みたいな投資をしても仕方ない。100 億円のファンドだったら、100 万円だと 1 万社、1,000 万円でも 1 千社に投資しないと使いきれないわけです。そういうところは、100 倍じゃなくて 2 倍でいいから、より勝率の高いところに、大きな金額をベットするというのが合理的な挙動になります。

そんなかんじですかね!次回は、エンジェルがどれぐらいスタートアップの実務支援をするか、みたいな話を書こうかなと思います。気になった方はぜひこの記事をスキ!したりシェアしてもらえると嬉しいです。

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