スタートアップのためのマーケティング講座
#SaaSLovers というリレーブログの7日目を担当します坂本です!3月7日は「サウナの日」らしいですが、本文中には特にサウナ出てきません。
自己紹介と前書き
本業では、デジタルマーケティング領域のSaaS企業『Smartly.io』(サウナの国・フィンランド発のスタートアップ) の日本展開をやっています。
キャリアとしては Google, AppLovin という外資・デジタルマーケティング畑を歩んできました。
実益を兼ねた趣味として、これまで30社以上のスタートアップにエンジェル投資をしてきて、マーケ領域を中心に色んなステージの会社の相談・壁打ち相手になっています。
"スタートアップ" と "マーケティング" の領域に長く住んでいるので、時々そのようなテーマで話をすることを求められます。
2019 年末から2020 年初にかけて、横浜市主催の『YOXO Accelerator Program』、OYO Japan 主催の『OYO 大学』という 2 つのアクセラレータ プログラムで、マーケティングの知識が余りない参加者向けにマーケの基礎を教える、という講義を行いました。
"マーケターとして" 働いたことがあるわけでもない自分が「マーケティングとは」を語るのも偉そうだし、「それは違う」ってツッコまれると論破される気しかしないのですが... (有識者の皆さま、お願いだから噛み付いてこないでください💦)
とはいえ入門編としては適度な内容だったのか、割と参加者からの評判は良かったので、どんな話をしたのかを書いたのがこの記事です。
SaaS にフォーカスした内容では全くないですが、SaaS 企業にも当然ながらマーケティングは超重要なので、その界隈の方にも少しは役に立つ内容になってるといいな。
では前置きが長くなりましたが始めます。
マーケティングとは何か?
さっそくですがめちゃくちゃフワッとした質問をします。
『マーケティング』とは何でしょうか?
急いで保育園のお迎えに行かないといけない方以外は、30 秒でも良いので、自分の言葉で説明できるか考えてみてください。
...自分自身あらためて考えてみたとき、バシッとワンフレーズで説明するような言葉が出てこなかったんですよね、実は。
なので、オーソリティが何と言っているかを調べて、参考にしてみることにしました。長いものには巻かれにいくスタイル。
まずはアメリカのマーケティング協会。
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。(アメリカ・マーケティング協会 - 2007)
"価値" っていうキーワード、あといかにもマーケティングっぽい "伝達" だけでなく "想像" "配達" "交換" という仕事もマーケの定義に含まれているのが興味深いです。
続いて日本のマーケティング協会。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。(日本マーケティング協会 - 1990)
"グローバル" って言っちゃうあたりが逆に日本っぽいというか、別にローカルでもマーケはマーケやろってカンジなんですが。
"他の組織" ってのは、例えば NPO みたいなのも含める必要があるよねってことでこういう表現になったそうです。
マーケの目的が "市場創造のため"、内容は "総合的活動" とされています。広すぎて何も言っていないようにも思えるのですが、ここで重要なのはおそらく「広告宣伝やら価値の伝搬みたいな狭い領域のことだけを、マーケティングと呼ぶのでは無いよ」っていうメッセージだと解釈しました。
偉人の言葉も参照しておきましょう。コトラー先生です。
マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス (フィリップ・コトラー - 2006)
ここでも、製品や価値の "交換" だけではなく、"生み出す" ところもマーケの範疇に入ることが明言されています。
これらを最大公約数的にサマライズすると、マーケティングってのはこういう活動だと言えるのではないでしょうか。
マーケティングとは
・会社または組織が
・製品/価値/市場を創造し
・他者との交換を通じて
・欲しいものを手に入れる
・制度/プロセスのこと (坂本達夫 - 2020)
うん、なんかわりと網羅されたっぽい。
でもこれよーーーく見てみると、一般的な企業の "マーケティング部" の職務分掌よりも、だいぶ広い気がしないですか?
っていうかこれ全部やるのって、その会社、あるいはプロダクトやサービス全体を経営するのと、ほぼほぼ変わらなくないですか?
そうなんです、マーケティングって突き詰めると経営そのものなんです。
ってことは、マーケティング力は、イコール経営力 (より正確には、経営力に非常に大きく影響する因子) だと言えるわけです。
マーケティング = 経営
マーケティング力 = 経営力
マーケティングとは経営であり、マーケティング力とは経営力である
ハイすみません、けっこう論理飛躍しました(笑)。でも別にマーケターの社会的地位を実態より高くしようと思って大袈裟に言ってるとかじゃないですよ。
マーケティング力が経営力と強くリンクしているというのは事実そうで、特に昔よりも近年のほうが顕著です。
理由はシンプル。
良いモノ・サービスを作ることが、イコール企業の "勝ち" とはならないからですわ。
それって当たり前じゃん?って感じる方はニュージェネレーションです。なぜなら、現在の日本の時価総額トップの大企業が爆伸びした高度経済成長期は「良いモノを作れば売れる」がわりと成立していたんです。
いわゆるモノづくり信仰。ある種、呪縛と言えるかもしれません。
もちろん、良いモノ・サービスを作らないと持続可能なビジネスが作りづらいというのは大前提としてあります。
とはいえきちんとコミュニケーションしないと知ってもらえないし、使ってもらえない。
もっと言うと、誰に・どんなモノ・サービスを作って、どのように届けるのか、みたいなのをモノ作りの前に調査・企画・検証しないといけない。
プロダクトアウトではそもそも誰にも響かないよっていうのは、経験ある方は痛いほど分かると思います。
(かくいう自分も、思い込みでプロダクト (アプリ) を作って爆死した苦い経験があります。あれは苦かった。興味ある方は下記動画をどうぞ [PR])
講義ではここで、実際マーケティング力で競争を勝った企業やプロダクトの事例を話しました。
が、思いっきり無許可でロゴが出まくっているのと、事実と異なる内容を含んでいる可能性があるので、この記事では割愛します。
(後発フリマアプリが業界トップになった話、売上ランキングトップのソシャゲがどれぐらいマーケチームに投資しているか、マーケティングオートメーションといえばタクシー広告でよく見るあの会社....をつい想起しちゃってる件、など話しました。興味ある方はぜひオフラインで議論しましょう)
(というか、成功している会社やプロダクトで、マーケティングが上手くないところって殆ど無いかも)
CMO (?) のお仕事って?CxO のお仕事って?
ここまで読んだ方は、「CMO のお仕事」は「宣伝部長のお仕事」よりも全然幅広いものだってことが、感覚としてお分かりいただけたのではないでしょうか。
じゃあそれって何なんだと言われると、言語化するのは難しい。ので図解してみました。
紫色の帯が、企業の価値生産のプロセスです。左から右へ。
「マーケティング」って言葉からぱっと想起されるのは、上の黄色い帯 (の特に下半分) じゃないですかね。いわゆる宣伝部とか広報みたいな部門が担当している領域。
それ以外にもマーケティング観点でやらないといけないことはこんなのがありますよって、頑張ってリストアップしたんですが...
他にも色々あると思います。めちゃ広い。
というのも、より一般的に CxO のお仕事って、企業やプロダクトの長期的な成長・利益のために必要なことを明らかにして、戦略・プランを立て、実行していくことじゃないですか。なので定義上、仕事内容って何かに限定されないものなんですね。
なので「必要なら何でもやります」って姿勢じゃないとダメだし、「何が必要なのかを考えて優先順位をつける」ってことが出来ないと "良い CxO" とは言えない。
特定の誰かを指すわけではマジでないのですが、例えば広告代理店出身でデジマ運用してるだけの人が CMO を名乗っていたり、PL, BS が何かさえ分かっていない採用担当者が CHRO って肩書きだったり、みたいな風潮は個人的には好きくないです。
能力的に足りていない人を "C の一族" に入れてしまうと、後々の成長や採用にも悪影響だし、「スタートアップはヌルい」っていう誤った認識を生んでしまうリスクさえあると危惧しています。
なので CMO のお仕事には、大企業でいう経営企画・経理・財務・情シス・人事みたいなバックオフィス部門のものも含まれるし、開発・デザインにも関与するし、広告・販促・広報や営業・ビズデブやサポートなんかもケアしないといけない。
スタートアップでは誰を CMO にするのが良いのか
果たしてそんな仕事を誰にやらせるのって話で、僕は個人的には、CMO というポジションは企業のステージがある程度進むまでは不要なんじゃないかと思っています。
全社の経営的視点、実務上で必要な知識・経験、市場やユーザーに対する深い理解、プロダクト開発力 (ふわっとした表現で恐縮です)、チームマネジメント・調整・エグゼキューション力、成長へのコミットメント、など全てを兼ね備えた人 (いや、それはもう神と呼んだほうが良いかもしれない) がたまたま採用出来たのであれば、その人を CMO という肩書きにしても良いでしょう。
でもそんな人は日本全体を見ても超レアタイプだし、いたとしても採用難易度はむちゃくちゃ高い。P&G のイケてるプロダクトマネージャ出身者を年収 1,500 万円 + 株式で引っ張ってきましょう、みたいなイメージです。適当だけど。
じゃあどうすんのっていうと、スタートアップには 1 人必ずいる、全社の経営的視点・市場やユーザーに対する理解・リーダーシップ・コミットメントを全て兼ね備えた人が、CMO 的な仕事をやるのです。
つまりこういうこと。
社長、あなたがやるんです。(どーん)
とはいえ全ての個別業務に対する知識・経験が CEO にあるわけではないし、全部自分でやるには当然リソースも足りません。
なのでそこは経験のある人を雇って、タスクとかプロジェクトベースで管理する。管理者として別の人を立てても良いでしょう。
ただ、全体の方向性を考えたり、経営リソースや事業計画など踏まえて予算や優先順位を決めたり、みたいなハイレベルなことは CEO、社長がやるべきです。
企業のステージが進んで、マーケティングの仕事がより多様化・複雑化し、より高い専門性が求められるようになって、かつ資金的にも多少の余裕が出てきた & 採用競争力が多少ついてきた、ぐらいのタイミングで初めて CMO というポジションの設置を検討するのが丁度いいんじゃないかと。
(もちろんビジネスのタイプによっては、初期からマーケティングの重要性が極めて高く、つよつよ CMO を採用したほうが良いケースもあるとは思いますが)
逆に初期から必要な CxO ってどのポジションなのっていうと、岡島悦子大先生のこの記事が分かりやすい & 面白いので、興味ある人は読んでみてね⭐️
CMO キャリアを目指す人へ
あえて一言で「CMO とは」を表すなら、「マーケティング方面に少し多めにパラメータを振った経営者」といったところでしょうか。
なので、例えばデジタル広告の運用みたいな個別スキルを磨くだけでは、その方面のプロにはなれたとしても、本来あるべき CMO になることは残念ながら難しいと思います。
ドラクエでいう最初に選択する職業で、広告とかデザインとかを選んだ人で、将来目指す上級職が CMO なのであれば、どこかで事業責任者的な立場、つまり BS・CF をバランスさせながら中長期的な PL の最大化を目指すという経験を積む必要があります。
余談ですが、現存する CMO の多くが P&G, ユニリーバ, ネスレ等の消費財メーカー出身なのは、それらの会社のプロダクトマネージャ (会社によって肩書きは違うかも?) がまさに担当商品の PL に責任を追っているというのが最大の理由 - なんじゃないかと想像しています。
それが得られるのは、もしかするとコンサルとか VC みたいなプロフェッショナルキャリアだったり、新規事業部門の立ち上げだったり、はたまたスタートアップの中枢への参画だったり。
多くの場合、単なる今やっている仕事の延長ではない、キャリア的には多少のジャンプが求められると思います。
そうして「経営がわかるマーケター」あるいは「マーケに詳しい経営者」になることが出来れば、CMO を名乗っても誰にも文句を言われることはないでしょう。
その暁に得られるのは、単に肩書き・ポジションや報酬だけではなく、なんかの「スキル」みたいな小さい話しでもなく、"世の中により大きなインパクトを与える力" です。
ARMS ちゃんと読んだことないんですけどね。スプリガンは好きでした。
おあとがよろしいようで。明日以降の #SaaSLovers もお楽しみに!