うわっ___

SaaSの営業が、アドネットワークの営業と勝手が違いすぎて全然上手くいかなかった話

この記事は『SaaSビジネス Advent Calendar 2019』の7日目の記事です!(他の記事はこちらのページで確認できます)

アドベントカレンダーなんぞそれ?って方は、発起人で元Datorama/SalesForceの小松さんの記事をご参照ください。

さてタイトルの通り、この記事は「しくじり先生」的な失敗談です。

僕のバックグラウンド

僕は現在のSmartly.io (フィンランド発、マーケティングテックのSaaS企業) に入社する前、AppLovinというシリコンバレー発アプリ広告企業の日本の立ち上げ (現地1人目社員)、その前はGoogleでAdMobというアプリ広告プロダクトの日本での事業推進をやっていました。

AppLovinもAdMobも、ともに日本で大成功を収めた...と言っていいのではないでしょうか。

僕1人の力では全くないのですが、とはいえ成功したのは事実なので、周りからは「坂本がやるなら、Smartly.ioとやらもきっと日本でも上手くいくだろう」と思われていました (多分)。

今も思われているはずです。

事実、僕自身もそう思っていました。いました... ました...

良いプロダクトなら売れる?

大前提として、AppLovinやAdMobがそうであったように、Smartly.io (以下 "Smartly")もプロダクトめちゃくちゃ良いんですよ。海外では圧倒的に実績あるし、代表的なお客様のいくつかだけでも凄い顔ぶれです。

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本社のある欧州、Facebook広告の最大市場である北米はもちろん、例えば東南アジアでは有名なユニコーン企業はほぼ全て弊社のクライアントです。

そんな良いプロダクトなら、AppLovinのときと "同じような" 営業をすれば楽勝で売れるはずだ - そんな風に思っていました。

甘かったです。

アドネットワークの売り方

アドネットワークが売れる背景には、実はいくつか隠れた条件があります。
(なお本記事では「お金を出してもらう」営業の話をするので、広告主サイドのことを書いています。マネタイズサイドではないです)

まず、クライアントは殆どの場合、既に他のアドネットワークを "買って" います。

営業に行く時点で、多くのクライアント (アプリ事業者) にはイケているプロダクト (アプリ) があり、そのアプリのプロモーションをどこかのアドネットワークで行っています。

「リリースされたばかりでまだプロモーションを行っていない」という例外はありますが、それにしたって開始時は他のアドネットワークと同時です。AppLovin "だけ" を買うことは無いし、そうすることを特別オススメもしません。

なので、(学習に必要なデータ量が確保できる) 最低限の予算さえもらえれば、新規案件を獲得する営業としてはミッション達成です。

(参照:アプリインストール広告の初期の機械学習ってどういうメカニズムで動いているの?)

全体予算が1,000万円あるとすると、そのうち100-200万円も配分してもらえれば、一旦はそれで良いのです。(OSごと)

広告主の目的、つまり見るKPIも非常に明確。AppLovinのようなパフォーマンス系媒体に関しては、基本的にはCPIやROASです。

目標数値を聞く必要はありますが、「プロモーションの目的やプロジェクトのゴールは何ですか」なんて聞くことはありません。より安く獲得を、より高いリターンを、なるべく大きなボリュームで。

あとは次月以降、パフォーマンスさえ良ければ勝手に予算配分は増やしてもらえます。

パフォーマンスを上げるために出来る人的な努力、実はさほど多くありません。キャンペーンのセットアップの際に "ベストプラクティス" に沿った設定さえすれば、基本的には成果 (CPIやROASといったKPIの実績値) に応じて、最適化は自動的に行われます。

一昔前のように、人間が手作業でパフォーマンスを合わせるためにガチャガチャ最適化する、みたいなことは殆ど行われなくなりました。
(まだそんなことやってるアドネットワークあるのかな)

CPIやROASについては、アドネットワークの中の人が「頑張って」何とかできような性質のものではなく (頑張れるのはクリエイティブぐらいかな)、アプリの "実力" でパフォーマンスは8-9割がた (肌感) 決まります。

つまりカスタマー (広告主) のサクセスは、CPIやROASなどの数字でほぼ説明でき、アプリの実力とアドネットワークのアルゴリズムによってほぼ決まります。人がカスタマーサクセスに与える影響は極めて限定的だと言えるでしょう。

反省の弁

先に断っておくと、ここから書く「SaaSの営業とは」って内容、デキるSaaSプロダクトの営業パーソンなら誰もが既に理解して、実践していることです。

たぶん。きっと。違ったら教えてください、僕まだSaaS業界歴浅いので。

もっというと、Smartly.ioに入社する前にMoonshot すがけんさんにわざわざ1on1で教えてもらい、blogにまで書いていた内容でもあります。

せっかくやり方を教えてもらっていたのに、その通りにやらずに失敗していたんですよね...。内容に同意できなかったとかではなく、単に慣れたやり方でやってしまってたのです。愚か者め...

SaaSの営業ではスペックを売ってはいけない

一言でいうと、僕は「Smartly.ioにはあんな機能やこんな機能があります、買いませんか?」っていう営業をしてしまっていたんですね。

Smartly.ioはめちゃくちゃ高機能です。入社約10ヶ月たった現在でも把握し切れないぐらい色んな機能があり、日々変化・改善し、増え続けています。世界中のトップ広告主が使っていて、ほとんどchurnしていない、つまり変化する彼らのニーズに応え続けてプロダクトを進化させ続けているんです。

これぞSaaSのあるべき姿。

ただ、そんなことは「これからSmartly.ioを使う」方にとっては関係ありません。

彼らにとっては、Smartly.ioが「自分たちにとって」どんな良い変化をもたらしてくれるのか、にしか興味がないんですよね。当然。

そして「Smartly.ioがもたらしてくれる良い変化」は、いくら機能を並べ立てても伝わらない場合がほとんど。どの機能を使って、どんな課題を解決すれば (高いゴールに到達するためのギャップをどうやって埋めれば) どんな輝かしい未来が待っているのか、をイメージしてもらわないといけないのです。

また、時々あるのは「今こんなことで困ってて、Smartly.ioで解決できますか?」という問い合わせ。たいていの場合、それらの悩みは解決できちゃいます。そうSmartly.ioならね。

ただこの場合も危険で、「他にも悩みはないですか」「将来実現したいことで、今まだ出来ていないことはないですか」「こんな悩みを持ってる人が多いんですが、おたくは大丈夫ですか」ってやって隠れたニーズを引き出さないと & ニーズを大きくしないと、対症療法的なソリューションに対して「この価格は高いね」ってなってしまったり、1つ課題を解決したらお役御免になってしまったり、といったリスクがあるんです。

...みたいなことを、App Annie 日本カントリーマネージャ 向井さん (ぼくの営業の師匠と勝手に思っています) に教えてもらい、勉強会まで開いてもらいました。その時の記事がこちら。(人気記事なのでまだの方はぜひ読んでみてください) ↓

アカンかった時代に何が起こっていたか

事前調査や仮説立てをすることなくお客さんのところに行きます。足で稼ぐのが営業。数こそ正義。

Smartly.ioの機能の説明をします。むっちゃ機能あるので、1時間早口で話しても全てはカバーしきれません。贅沢なイクラ軍艦ばりにこぼれる機能。こんなに沢山の機能があって、価格はたったこれだけ。安い!ドヤァ

で、結果はけっこうな割合で失注。理由の多くは「使いこなすイメージが掴めない」と「自分たちのビジネスが良くなるイメージがつかない」がトップ2、ついで「今じゃなくてもいいかな」でした。

運良く受注できたお客さんについても、「なんか色々機能あるみたいだけど、何があるのか、どこにあるのか分からない」とか「そもそも何をすれば次のレベルに行けるのか分かっていない」といった理由で、間も無くchurn...おかあちゃーん...

ターゲットの変更

そこで変えたことの1つとして、物議をかもしそうですがあえて言うと、秋口ぐらいから代理店経由での拡販にさくリソースを減らして (リアクティブには誠心誠意対応してます)、インハウスでマーケティングをやっている会社に営業ターゲットを絞りました。

日本って諸外国と比べて、デジタル広告における代理店商流の割合が非常に大きいんですね、事実。なので最初はSmartly Japanとしても、代理店の攻略が成功の鍵だ!と思い、大手から中小まで多くの代理店に対して営業をしました。

それが、あまり上手くいかなかったんです。

上手くいかないというのは、
●価格を理由に実施を断念される (価値を上手く伝えられていない)
●一部機能しか活用されない・超短期で成果を求められる (PDCAサイクルを1周も回せない) 等の理由で早期にchurnしてしまう
など。

代理店の方にも頑張ってもらって開始したのに1-2週間で終了、みたいなケースが何度もありました。

インハウスでマーケティングをやっている会社は、まだ多くはありません。なので「インハウスでマーケティングやってる会社に絞る」というのは、数字の論理でいうと合理的ではない判断です。

ただ当時は、日本でまだ「Smartly.ioのおかげで大成功した」という事例が1つもなく、Smartly Japanのリソースも限られていた (なんせ僕1人) ので、数は少なくとも1つ2つのクライアントに絞って、彼らを全力で成功させるべきだと決断しました。

(ちなみに、未来永劫その小さい「インハウスでマーケやってる会社」セグメントで勝負していこうとは思っていません。ゆくゆくは代理店さんの力を借りて、大きくビジネスを伸ばすフェーズも必要になってくるはずです)

クライアントを成功させることを考えると
●彼らの成功 (ゴール) は何なのか
●現状はどうなっているのか
●理想と現状とのギャップは何なのか
●どうしてそのギャップが埋められていないのか
を正しく把握する必要があります。

その上で、必要なソリューションをピンポイントで提案し、実装まで伴走しないといけません (セルフサーブだと難しそう。機能がありすぎて分かりにくいし、UIは英語だし)。

となると、インハウスで広告運用している会社に、深くヒアリングするのが必須だな、となるわけです。

(ちなみに、Moonshot すがけんさんや、こないだアドテックでご一緒させていただいたMediaMathの富松さんなど、みなさん「最初は直接クライアントに行け、代理店に行くな」とおっしゃいます。その意味が体験を通じてようやく分かりました)

機能説明をやめて、ひたすらヒアリング

営業スタイルとしては、よほど課題がクライアントの側で明確になっている場合を除いて、最初の打ち合わせでSmartly.ioの機能を説明するのをやめました。

高機能なモノを持っていて、あちらも多少なりとも興味を持ってくれている状況で、説明しないって凄いストレスなんですよ。あと、僕自身、喋るの好きなので。笑

でもそこで説明をしちゃうと、課題の深堀りができず、ピンポイントで課題の解決策の検討が出来ないんですよね。先方も自分も満足しちゃうんでしょうか。

なのでそこはグッとこらえて、初回打ち合わせではグッとヒアリング。
(これについては今でもまだ十分上手く出来ていない自覚があるので、赤司さんの記事 (SaaS Advent Calendar 2019 の2日目)にあるように、ヒアリング項目をフォーマットにするなどの対策が必要だと考えています)

なのでプロダクトの説明は、2回目以降の商談になります。なんだかすごく遠回りだし時間の無駄だなぁ、って思っていました。一回の営業でゴール決めるのがカッコいいやろう、って。

ただやってみると、逆にこっちのほうが効率は良くなりました。沢山ある機能のうち、本当に必要な機能、お客さんの課題を解決する機能についてのみ説明すれば良くなったからです。

さらに言うと、機能説明の時点ですでに、具体的に「どういう順番で実装していけばいいのか」「何をKPIとして成果をはかるのか」といった話が出来るので、いざ契約できた後のオンボーディングのプロセスもスムーズになります。

結果、10月にリード作りから開始して、11月末時点で新規に3件のお客様に契約いただきました。他にもポジティブに商談中のところが複数あります。それまでの燦々たる状況と比較すると、かなり好転したと言っていいと思います。

最後に、この経験から得た学び

新しい領域に飛び込む (今回でいうと、売るものがアドネットワークからSaaSプロダクトに変わった) 時には、いったん過去の実績も知識もゼロにして、新人の気持ちでその領域のベストプラクティスを学んだほうが良かったですね。

色んな人から「坂本さんが営業するなら売れるでしょう」と言われ、自分でもそう思っていましたが、正しいやり方でやらないと通用しませんでした。

苦戦していた頃は精神的にまぁまぁキツかったですが、尊敬する先輩がたからいただいたアドバイスのおかげで光明が差し、今ようやく長いトンネルを抜けたかな...というフェーズです。その過程で、自分が営業としてレベルアップしている実感があり、それ自体が大きな喜びです。

ゲロキツイ→学ぶ成長する。この過程を楽しめる人でないと、大きな変化を伴うキャリア・ロール(役割)チェンジはオススメできないです。得意なこと・やれることをやる、手持ちのスキルをそれが必要とされる場所で活かすほうが、楽だし、感謝されるし、また世の中に対しても十分価値のあることだと思います。

どマゾの人や、成長実感が持てないと死んじゃうってタイプの人は、それだと物足りなくなっちゃうんですかね。

明日の予告

そんなかんじで、なんやかんや6,000文字以上になってしまったので、このへんで明日にバトンを渡します!

明日は、サブスクリプションビジネスの効率化・収益最大化プラットフォーム "Scalebase" を運営するアルプ社 Founder/CEO 伊藤 浩樹氏がお届けします。実は大学の同級生です。あのハードシングスの裏側とか書いてくれないかなー。笑

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