Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)
続・広告が『見られただけなのにクリックされたことになってる』問題 - ビュースルーコンバージョンにまつわる誤解と悪意
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続・広告が『見られただけなのにクリックされたことになってる』問題 - ビュースルーコンバージョンにまつわる誤解と悪意

Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)

こんにちは!日本・グローバルで急成長している、機械学習ベースのアプリ DSP『Moloco』日本事業責任者の坂本です。

「Moloco さん効果が良すぎるから配信停止します」

これ、最近立て続けに実際あった出来事です。ちょっと意味が分からないですよね?w

その広告主さんは代理店さんを介して、Moloco をはじめいくつかの広告ネットワーク・DSP に iOS アプリのインストール広告を配信していました。

トラッキング方法は、

  • Google, Facebook, Twitter などいわゆる『big tech』系ネットワークは『SKAN』(SKAdNetwork)

  • それ以外の媒体は MMP (Mobile Measurement Platform = AppsFlyer, Adjust などのアプリ向け計測ツール) の probabilistic (確率論的) モデリング

を採用。最近では一般的なセットアップかな。

配信開始してすぐ、Moloco の CPI (インストール単価) がとても低い (ざっくり big tech 系の半分弱) であることが、代理店さん・広告主さんの注意を引きます。
イメージでいうと、SKAN で見たときの big tech の CPI が 1,000 円ちょい、MMP で見た Moloco の CPI が 500 円弱、みたいな単価感。

そこで代理店さんが MMP の管理画面をよく見てみると、

Moloco の『View Through 比率』が高い気がする…

ということに気づきます (比較対象は、SKAN に移行する前の big tech 系の View Through 比率)。なんか気持ち悪い、という理由で Moloco だけ配信停止になりました。

問題点その 1 : 違うものを比較している

何かを比較した上で意思決定をする場合、必ず守らないといけない原則が『Apple to Apple』つまり『同じモノサシで比較する』ことです。

そもそも上記のキャンペーンは、big tech を SKAN、それ以外を MMP で配信している時点でけっこう無理があります。

だったら全部 SKAN にすればいいのに、って思うんですけどね。Apple 社が提供してるツールでの比較になるから、本当の意味で Apple to Apple になるし!ズザザザー(滑った音)

Google / Meta (Facebook) 広告の効果を SKAN で見る際の注意点

big tech 系は SKAN でしか計測できません。SKAN において Google, Meta (Facebook) は、デフォルトでは View Through コンバージョンも全て Click Through に内包してしまっています (※)。全部クリック経由のインストールに見える、ということです。

(※ Facebook / Google は独自 API で SKAN データを MMP  に提供しており、現状は全データがクリックスルーに内包されています。SKAN → FB/G → MMP という流れ。
ただ、SKAN のデータを直接 MMP へ転送する設定を広告主が行えば、この内訳も管理画面上で確認可能です。SKAN → MMP → FB/G という流れにするということです。詳細はこちら)

信頼できる某 MMP の中の方

MMP で big tech 系媒体を計測する際の落とし穴 (iOS に関しては昔話)

また、上記の『Moloco の View Through 比率が (big tech 系と比べて) 高い気がする』の比較対象は、MMP で計測していた頃の big tech 系の View Through 比率です。

そこに 1 つ大きな誤解があります。それは MMP において『big tech の "click / view" の定義と、それ以外の媒体の "click / view" の定義が違う』ということです。

出典『いちばんやさしいアプリマーケティングの教本』著: 森下明

別に隠された情報というわけでもないのですが、big tech 各社や MMP が (恐らく何らかの意図をもって?) 声高に伝えようとしていないため?、アプリ広告に関わっている人でも未だに正しく理解していない人が多くいます。

例えば、Twitter の『クリック経由のインストール』には『タイムラインで静止画広告を 2 秒間表示させただけ』も含まれているし、Google AC の『クリックスルーコンバージョン』には『6 秒のバンパー広告 (スキップ不可) を完全視聴して、29 日後にインストール』も含まれています。

クリックはビュースルーに優先します。なので、例えば
===
Twitter で 2 秒間バナーを表示した 12 日後に
AppLovin の動画広告を 15 秒間完全視聴し
その場ではクリックしなかったけど
30 秒後に App Store にいってインストール
===

といったケースでは、MMP では『Twitter のクリックスルー CV』としてカウントされます。

big tech ずっこくねぇ!?という気持ちが微量子レベルで存在しているせいか、ちょっと扇動的な書き方になってしまっている自覚はあります。てへぺろ
ただ、これが事実・ファクトであり、アプリのデジタルマーケに関わる者であれば立場を問わず正しく認識しておくべきものだと考えます。

(Android では 2022 年 4 月末現在いまだにこうです)

問題点その2 : クリックへの過信、ビュースルーの過小評価

恐らくこれは日本のデジタル広告の歴史や文化によるものなので、一朝一夕に変わるものでは無いと思います。

我々 Moloco も未だによく『ビュースルーを OFF にして、クリックスルーのみで配信できませんか?』と聞かれます。
(全てお断りしています)

例外が無いとは言いませんが、広告枠って媒体 (この場合は "広告事業者" ではなく "アプリの開発者" の意味) が一生懸命作っているものなんですよね。
アプリを作って、ユーザーを集めて、極力ユーザーの邪魔にならないよう配慮して、かつ広告主に最大限の効果があるような位置・タイミング・フォーマットを選んで、生み出しているのがその管理画面に出ている 1 インプレッションです。

『ビュースルーを OFF にする』というのは、その広告表示自体の価値はゼロ、広告がクリックされない限り存在意義が無い、と言っているようなものです。
(自分は元々サプライサイド、パブリッシャー側からアドテクのキャリアをスタートさせているので、そちら側の目線も強く持っています)

ビュースルーの価値が無い、という命題に対する反論

ビュースルー、つまり『広告は見られたけどクリックされていない』の価値が本当にゼロなのであれば、TVCM や屋外広告の価値だって無いはずですよね。

皆さんがよく口にする『オーガニック・インストール』なんてもの、本当は存在しないんですよ。
ユーザーはどこかで必ず、あなたのアプリの情報に接し、インストールして使いたいな、と思っている。だからインストールしているんです。
現存する技術で追跡することが出来ていないというだけです。

ビュースルーを OFF にするというのは、今でさえ完全ではない (恐らく完全にはならない) トラッキングを、一層曖昧にするという、言わば退化行為です。
その結果もたらされるのは、より解像度の低い情報と、それによってなされる意思決定です。

また、前段の big tech との比較のところでも触れましたが、ビュースルーはクリックに対して劣後しています。
クリックのみであれば通常『ラストクリック』が成果カウントされる (アトリビュートされる) ところ、ビューの場合、たとえば『広告がクリックされ、そのあとで視聴されて、コンバージョン発生』というケースにおいて、後からされた視聴ではなく前にされたクリックのほうに成果がカウントされます。

ということは、ビュースルーコンバージョン 1 件が意味するものは、『あるユーザーは、過去 7 日間 (※) にオンライン上で一度も広告をクリックしていない状態で、広告を視聴し、1 日以内 (※) にそのアプリをインストールした』ということです。
この広告 "視聴"、本当に価値が無いと言えますか?
(※ クリック 7 日、ビュー 1 日のデフォルト設定のケース。変更可能)

問題点その 3 : アドフラウド (広告詐欺) の温床になる

もう 2 年半前にもなる前回の記事『広告が見られただけなのに、クリックされたことになっている?』で、実際には広告 "視聴" のタイミングで、裏側で "クリック" URL を発火させるという手口を紹介しました。

その時は『これは FOX や PartyTrack といった、impression URL を発行できない仕様のトラッキングツールが主流だった時代の暫定措置』と説明しましたし、事実 AppsFlyer や Adjust などが主流となったあとは、前々職 AppLovin でもちゃんと視聴時点では impression、クリックされた時点ではじめて click URL を発火させるという仕様に変えました。

ですが残念ながら、2022 年現在でも『広告 "視聴" のタイミングで、裏側で "クリック" URL を発火させる』手口は横行しています

僕もこの半年以内で、『クリック率が 95% 以上の媒体』(他媒体は 1% 弱) や、『200 万クリックから、コンバージョンが 10 件しか発生していない媒体』など、「おうおう、やってんなぁ」というレポートを見てきました。(手元にあります)

JIAA (日本インタラクティブ広告協会) も『クリック偏重こそがフラウドの温床になっている』というレポートをあげています。(24−27ページあたり)
https://drive.google.com/file/d/1gBFXUew_gm65aNyRRn6y6brkCLxR7Q6j/view?usp=sharing

悪いのは誰か?
自分の聞き及ぶ範囲では、明らかに騙す意図を持ってそのような仕様にしているアドネットワークや DSP は存在します。
広告主さんが本当に理解しているのかどうかは不明ですが、Moloco に『コレ出来ませんか?』と問い合わせてきた代理店さんもいました。(丁重に説明してお断りしました)

ですが元凶にあるのは、広告主さんや、アプリのマーケ界隈全体に蔓延している、不勉強・不理解や、合理的でない信仰心 (クリック信仰) があるような気がしてなりません。
そうじゃないと、媒体や代理店さんも、そこまで躍起になって『view を減らして click をカサ増ししよう』とはならないんじゃないでしょうか。

健全化する努力はもちろん必要

ビュースルーには正当な価値があります、というのを声高に主張したいわけですが、一方で例えば『長いページの最下部にあって、ユーザーの目に触れてさえいないのに、impression URL を発火してまーす♡』みたいなのは当然 "違う" わけです。

『広告視聴』『クリック』の定義が違うと、広告主さんや代理店さんは Apple to Apple で比較して正しい意思決定が出来ない。
また、定義に曖昧さ・変更余地を残すと、そこを変にハックして得をとろうというプレイヤーが出てきてもおかしくありません。

その定義を揃えようと努力しているのが、IAB (Interactive Advertising Bureau - インタラクティブ広告業界団体) です。弊社 Moloco は IAB から作られた TAG (Trustworthy Accountability Group) という認証機関に所属しており、TAG は日本の JICDAQ (一般社団法人 デジタル広告品質認証機構) と姉妹関係にあります。興味ある方以外、名前は覚えなくても大丈夫です。

それらの業界団体が、広告『視聴』の定義について、以下のような規格を定めています。
===
静止画 : 1 秒以上見られて、かつ、枠のピクセルの 50% 以上が見られた時
動画 :  2 秒以上見られて、かつ、枠のピクセルの 50% 以上が見られた時

(参照: JIAAの資料 (20ページ目ぐらい) https://drive.google.com/file/d/1gBFXUew_gm65aNyRRn6y6brkCLxR7Q6j/view?usp=sharing )

(その有効性を計測・担保してくれる DoubleVerify や CHEQ といったアドベリフィケーションというツールもあってだな…と延々語れちゃうけど本記事では割愛)

めちゃくちゃざっくりまとめると

クリックからのコンバージョンなら安心!ビュースルーコンバージョンの価値は認めない!というあなた!!

その『クリック』に、実はビュースルーが混じってるかもしれないって分かってる!?

そもそもビュースルーに価値が無い、っていう認識自体がおかしくない!?

ビュースルーの価値をきちんと統一してる規格・団体もあるんやで!

正しく理解した上で、可能な範囲で正しく計測できる状態を作って、正しく意思決定をしてビジネスを伸ばしていきましょう!

そして清く正しいデジタルマーケティング業界を作っていきましょう!

そんなかんじかな!

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Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)

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Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)
モバイルアプリマーケティングの専門家です。外資系広告プラットフォーム企業勤務。ちょっぴりエンジェル投資なんかもしてます。アプリ開発もやってます。