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アプリ向けヘッダービディングって何?SSPとどう違うの?

時々聞かれる質問です。

特に先月 (2019年9月) AppLovin が「MAX by AppLovin」の正式ローンチを発表してから、「これって何?」「メディエーションとどう違うの?」「SSPよりも良いの?」といった質問をいただくことが増えてきました。

この記事では、アプリのマネタイズで「広告ネットワークは1つだけ使うより複数使ったほうが良いよね」ってところまでは分かっている方向けに、メディエーション・SSP・ヘッダービディングの違いを解説しています。

この記事を読めば、おそらく前提知識がないと10%ぐらいしか理解できないであろうこの記事「広告運用のプロ達が語る、ヘッダービディングぶっちゃけ対談会レポート 〜収益化のコツや落とし穴など〜」が、60%ぐらいは理解できるようになるんじゃないかと思います。笑

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アプリ広告マネタイズの歴史的経緯

これまでのアプリの広告マネタイズは、ざっくり
  1. アドネットワークは1つ入れときゃいいよ時代
  2. 複数使って比率でトラフィック振り分け時代
      (fill rateが比較的高いバナー広告が主流)
  3. メディエーション使ってウォーターフォール時代
      (必ずしも100% fillさせることを前提としない動画が主流)
という流れで推移してきています。

(参考: 3. に関連して、2016年の頭に「[図解] アドネットワークの配信調整を比率でなくウォーターフォールでやったほうがいい理由」って記事を書きました)

で、2017年末~2018年初頭ぐらいから、
   4. ウォーターフォールの中に1つのアドネットワークを複数入れる時代
が訪れました。

ウォーターフォールの中に1つのアドネットワークを複数入れる

どういうことかというと、それまでは
   1. FAN $20
   2. AdMob $15
   3. UnityAds $13
   4. AppLovin $10
みたいなかんじで設定していればよかったのが、

   1. FAN $20 & AdMob $20 & AppLovin $20
   2. FAN $19 & AdMob $19 & AppLovin $19
   3. FAN $18 & AdMob $18 & AppLovin $18
   4. .....
(以下、どれかのアドネットワークが表示されるまで延々続く)

という実装を、MopubIronSourceメディエーションを使って行うところが主流になってきたのです。

※なお2019年10月現在、AdMobではこの実装はポリシー違反になります。(1回の広告リクエストに対して、同じアドネットワークは3回までしか呼び出せないため)

上記実装をすれば理論上は (= 例えば $100.0 から $0.1 刻みとかでレイヤーを作りまくれば) 収益最大化できるのですが、1つ問題がありました。

それがレイテンシーです。

レイヤー盛り盛りにすると発生してしまうレイテンシー問題

上記のケースにおいて、例えば $17 で設定している FAN が広告を返してくれたとすると、$20~$18 まで3つのアドネットワークに合計9回
「(単価いくら)で広告在庫ある?ない?ハイ、ないんスね、わかりました次いきます」
っていう通信を行なっていることになるのです。

これを解決するのがヘッダービディングです。

ヘッダービディングについて簡単な解説

上記の例で簡単に解説すると、ヘッダービディングとは FAN, AdMob, AppLovin に対して「今このインプレッションに対して幾らで買う?」とリクエストを1回だけ投げ、各アドネットワークから「$XXで買います!」とレスポンスが返ってきた中で、もっとも高かったものを表示するという挙動をします。

つまり各アドネットワークに対する通信が1回ずつで済むのです。
なのでレイテンシの問題は大幅に改善されます。

レイテンシが改善されると、アプリの収益および収益性は向上します。

その理由として、実装にもよるのですが、例えば広告をロードしようと何秒も通信を続けている間に、ユーザーに広告を見せるタイミングを逃してしまう、といったことが考えられます。

また、従来のウォーターフォールで、例えば $1 ごとにフロアを設定していた場合、本当は $13.7 もらえたはず (広告在庫があった) なのに、実際には ($14 では広告が表示されず) $13 しか得られない、といったことが起こります。

この機会損失分をヘッダービディングの場合はきちんど拾うことができるので、構造上「メディエーション x ウォーターフォール」よりも収益性は高くなります。

RTBとはどう違うの?

いい質問ですね!
RTBもヘッダービディングと同じように、広告リクエストを複数のバイヤー (DSP, アドネットワーク, 広告主など) に飛ばして、もっとも高い金額で入札したプレーヤーがそのインプレッションを獲得する、という点では同じです。

裏側の技術でいっても、RTBもヘッダービディングも、同じOpenRTBというプロトコルに準拠しています。

そもそもwebの世界でいう「ヘッダービディング」と、アプリのそれとは、微妙に前提条件や目的が違っているのですよね。

世の中にある全てのDSP・アドネットワークが1つのヘッダービディングあるいはアドエクスチェンジに繋がって、裏側で入札競争してくれれば、1つのタグ・SDK を入れるだけで収益最大化が実現することになります。

webの世界ではこれがヘッダービディング・RTBで実現に近づきつつあります。

が、残念ながらアプリの世界では、広告の配信・表示の部分が各アドネットワークごとに仕様が違っているため (他にも理由あるのかな)、使うアドネットワークの数だけ SDK を入れないといけないという点には変わりがありません。

そのかわり RTB との違いでいうと、商流に SSP・DSP が入るわけではないため、それぞれのプレイヤーにマージンをとられることはありません。

あくまで、これまでのウォーターフォールでのメディエーションが進化したのが、アプリにおけるヘッダービディングだとご理解ください。

アドジェネ、アドフリ、AdStirみたいなSSPとはどう違うの?

アドフリくんやAdStirなどは、アドテク的な文脈でいうとSSPというよりは「有料メディエーションサービス」のほうが正確です。

SSP (Supply Side Platform) は本来は、RTB (real time bidding) という技術をベースとした、サプライ (メディア) 側のツールです。

超簡単に言うと、1つのタグやSDKを実装するだけで、複数のDSP・アドネットワークからの入札を受け付けることができる仕組み、のことです。

対極にあるのがDSP (demand side platform) で、これは1つの窓口から複数のSSPやアドネットワークに同時に入札 (出稿) できますよというものです。

日本のアプリ業界の中で長らく「SSP」と呼ばれてきたものは厳密にはこれとイコールではありません。

なぜなら、1つのタグ・SDKで完結するのではなく、複数のSDKの実装を前提とし、どのSDKを呼び出すかという制御部分を担う機能が「日本式SSP」がやってきたことだからです。

その機能は本来アドテク文脈では「メディエーション」と呼ばれるものですが、まぁそんな細かい言葉の定義なんて、アドテクマニアな人たち以外は気にしてこなかったんですね...

ヘッダービディングは、そういったSSPやアドネットワークのレイヤーの1つ上に置くというのが本来の使い方になります。

そうなると当然、ヘッダービディングとメディエーションの組み合わせ、みたいなサービスが求められますし、アドジェネや MAX なんかはそういう方式でメディア収益の最大化をサポートしているようです。

どこのヘッダービディングが良いの?儲かるの?

ヘッダービディングは現在まだ提供している事業者が限られています。

ぼくが把握している限りではMopubとAppLovin (MAX) が提供中、AdMobが一部メディアでテスト中 (らしい) というかんじのようです。
(他にもあったらここに追記するので教えてください)

考慮すべきポイントとしては、各ヘッダービディングのベンダーの裏にどの広告ネットワーク・DSPがバイヤーとして控えているのかどうか、の1点のみ...に理論上はなるはずです。

同じバイヤーがついていた場合、理論上はどのヘッダービディングを使っても収益性は同じになるはずです。
(実際にはレイテンシーや配信ロジック、入札側の仕組みによって多少変わってくるとは思います)

収益性については、理論上はメディエーションを使うよりも改善されるはずです。

実際、MAXをベータ版の頃から使っているデベロッパーさんの話を聞く限りでは、数パーセントから数十パーセントの幅で収益性が向上しているケースが多いようです。

これから何が起こるのか

テクノロジー的にはかなり行き着くところまで進化しきった感がありますが、これからしばらくの間はヘッダービディング事業者間での競争が激化してくるんじゃないかと思います。

まぁ競争って言っても、もはや営業力で何とかなるものではなく、プロダクトと、裏でどのDSP・アドネットワークと繋げるかというbiz dev (ビジネス開発) 力のほうが重要になってくる気がしますね。

その中で、どのプレーヤーがプラットフォームとしての覇権を狙いにくるのか、どのプレーヤーがどのプラットフォームを担いでネットワークとしてのシェアを伸ばしにくるのか、などキングダム的陣取りゲームとして戦況を眺めるのも、マニアックな楽しみ方として良いのではないでしょうか。


ふぅ長かった......頑張って書きました。

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Tatsuo Sakamoto (坂本 達夫)
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