【実体験】アドフラウドの売り方
この記事はフィクションではなく、伝聞でもなく、私 坂本達夫の実際の行動を、記憶に基づいて書いたものです。
時は遡り2019年か2020年頃、AppLovinを退職して次の会社で働いていた時代。
ぼくは友達と一緒に、副業で広告代理店のようなことをやっていました。
その過程で、けっこうな割合でアドフラウド (が極めて疑わしいトラフィック) を売ってしまっていたと思います。
ちゃんと生データを調べたわけではないので、証拠は無いのですが、状況を振り返ると恐らく。
まったく褒められる要素がない話なので、墓場まで持っていっても良かったのですが、この黒歴史をシェアすることでフラウド野郎ども (※) の手口が明らかになるなら…という思いで筆を取りました。
(※フラウドの割合が多いことが分かっていながら売っている広告媒体、ならびに広告代理店のこと。かつての僕を含みます)
当時やっていたこと
友達と一緒に立ち上げた法人 (今はもうない) で、いくつかのアプリのプロモーション (ユーザー獲得) の広告運用を請け負っていました。
いわゆる広告代理店 (運用代理店) です。
一部は広告主との直接取引、一部は他の広告代理店からの二次三次請けでした。
依頼主は以前から知り合いだった人たちで (新規に営業したわけではない)、依頼理由は『自分たちで運用するリソースがない』『Google, Facebook等メジャーなところ以外の媒体を知っていそう』といったものだったと記憶しています。
上述の通り、多くの依頼主はすでにGoogle, Facebook等のメジャーな媒体を (インハウスで、あるいは別の代理店で) 運用していたので、期待されていたのは『マイナーな媒体を発掘し、そこに配信して高いパフォーマンスを出す』こと。
そのため僕たちは、2種類の媒体を取り扱いました。
1つは、AppLovin, UnityAds, Vungle, AdColonyなど、2015年前後から日本参入していた『比較的ちゃんとした』媒体。
もう1つは、その後2018年前後から攻勢を強めていた『比較的ちゃんとしてない』媒体です。
『比較的ちゃんとした』媒体については何の問題も無かったので、以後割愛。
『比較的ちゃんとしてない』媒体は、配信開始当初、一見するとパフォーマンス (CPIや継続率) は悪くありませんでした。
というかむしろ『ちゃんとした』媒体よりも良かったんですよね。(もちろんカラクリがあって)
なので依頼主から「もっとこれらの媒体からの獲得を伸ばせないですか?」とリクエストがきます。
これらの媒体の運用を担当していた友人A「まかせてください!」と袖をまくり (比喩)、媒体の中の人に連絡。
たぶん「アグレッシブに頼むぜ」的なことを言ってたんだと思います。
翌日から、インプレッション、クリック、インストールが爆増。
めでたしめでたし。
と、思いきや…同時に『フラウド率』も爆増しちゃったんですよね。
きちんとそのへんモニタリングしてる広告主さんからはすぐに指摘されます。「ちょ!フラウド多いっす!」
友人A「大丈夫っす!減算します!ちょっと待ってください」
なんかよく分からないけど計算した?結果を持ってきて、いわく「xx件がフラウドだったので、その分は請求対象から外しますね!」
えっそれお前が計算してええやつなん?
と内心疑問に思っていましたが、まぁ依頼主が納得しているならそれ以上こちらから深掘るインセンティブもないので、そこで話は終了。
んで最後は…どうなったんだっけな。
まったく思い出せない。でも今のMolocoに転職するよりだいぶ前には全ての案件が消滅していました。
んで後日談ですが、今では当時配信していたフラウドが疑わしい媒体はすべて日本から撤退しています。
僕が友達と一緒に立ち上げた法人も、先日精算。諸行無常です。
2023年現在の坂本の知識で上記の話を解説
1) アドネットワークやDSPの配信先に【ホワイト】【グレー】【ブラック】がある
友人に聞くと、どうやらそのアドネットワークの配信先には
1) クリーンなメディア
2) グレーなメディア
3) ブラックなメディア
があったそうです。
予算が小さいうちは【1 (+ ちょっと2)】だけに配信するんだけど、予算を増やすと 2 および 3 の割合が次第に高くなります。
2とか3のメディアは、配信先レポートを見てもよくわかりません。
見たことないようなドメイン、えっこれ日本じゃないよね?みたいなところとかも少なくない。
なんなら配信先非開示っていう媒体もありました。
「あの媒体はフラウドだ」と断言することは出来ません。
なぜなら、同じ媒体でも、大胆にアクセルを踏んでいたらブラック度が増すし、予算が小さければ意外とホワイトなこともあります。
ちゃんと配信先メディアまで時々チェックして、せめて配信先の国のユーザーが普通に見ているメディアであることぐらいは確認したほうが良いですね。
2) 担当者レベル & 短期ではみんな幸せ
企業のマーケティング担当者は、そんなに本質的ではない目標を追っていたりします。
表面的なCPIとかROASとか。
フラウドのタイプ (オーガニックや他媒体から成果を奪うタイプ、成果自体が機械的に作られた偽物であるタイプ、など) によらず、見た目上のCPIは他媒体より安いわけですよ。件数もそこそこ取れる。
他から成果を奪うタイプであれば、インストール後の継続率や課金もそう悪くない。(であればCPIが安い分、ROASは良く見える)
そう、これ担当者は社内で褒められるんです。
ちゃんとフラウド対策してますよっていうポーズがとれて、かつ、それがバレない限りは。
バレた場合は…どうするんですかね。代理店のせいにして、別の代理店に変えてみたり、返金を迫ってみたりするんでしょうか。
そういう意味では、アドフラウド問題は媒体だけが悪いというわけではないと思います。
👿 フラウドまみれと薄々分かりつつ、自社の売上利益のためにその媒体を売り続ける代理店 (←かつての自分)
👿 知識をつける努力をしないせいで知らず知らずのうちに、あるいは、知っていて自分の成績のためにあえて、フラウド媒体を使い続ける広告主
これらも同様に罪深い。
法的に、というよりも、結果的にフラウド事業者にお金を流し続けている、という点で。
1) フラウド事業者の背後にいる反社会的勢力に資金提供をしてしまっている
2) 長期的な事業成長につながる意思決定を行なっておらず、株主の利益を損ねている
3) 真面目にやっているプレイヤーが報われず、業界の健全な発展を阻害している
3) 人よりもデータを信じたほうが良い
僕がSNSでフラウド撲滅を叫んでいるため、「坂本さんが言うならMolocoはさすがにクリーンだと信じてます」って言ってくれる方、結構います。
それ自体は有難いし、さすがにここまで言ってて実はMolocoもフラウドでしたってなると、この先仕事できなくなるレベルで僕個人の信頼がヤバいことになっちゃいます。
心からMolocoはクリーンだと言えるし、実際いろんな第三者指標で高く評価されてるので、信用してもらって概ね問題ないでしょう。
ただ、4年前の坂本がどうだったかというと、Google (AdMob), AppLovinを連続で成功させた、十分に「イケてるモバイル広告の人」だったと思うんですよね。客観的に見て。
そんな坂本さんですら、薄々「どうなんやろなぁ」と思いながらフラウドに手を染めてしまっていたわけです。
もうこれ、人ベースだけで無思考に信頼するのは相当危険だと思うんですよね。残念ながら。過去のキャリアとか関係なく。
金なり何なりに目が眩んでしまうこともあれば、ピュアに知識が足りていないことだってあり得るのです。
じゃあ何を意思決定の基準にするかというと、やっぱりデータ・ファクトかなぁと。
自分がマーケターだったとしたら、こういうところを見ます。
まずは、AppsFlyerやSingularなどが出しているレポート。
ボリュームと品質を両方加味した指標で上位にいるネットワークから、順番にトライする。
逆に、そういったレポートで上位にきていない (なんなら載ってない) のに成果がやたら良いみたいなケースは、違和感をおぼえましょう。それだけでアウトではないけど、何かしら理由があるはず。
理由をあなたが説明できないとしたら、そのまま使い続けるのはリスキーだし、無責任です。
次に、なるべく細かい粒度でデータを見る。
媒体ごとに見る。
CPIやROASといった最終指標だけでなく、CTRやCVRといった中間指標も、他の媒体を比較して極端に違うところが無いかを見る。
インプレッションとクリック数がほぼ同じ (CTR 80%以上 - そんなわけあるかい💦) みたいなケース、未だに時々あります。
恐らくインプレッション時点でクリックURLを叩いてます。
逆に数値が『違ってもOK』な場合もあります。
例えば、バナー中心のネットワークと動画中心のネットワークでは、CTRが2桁ぐらい違っていても自然です。
Google検索やApple Search AdsのCVRが40%以上とかあっても、違和感ありません。アプリをわざわざ検索して探しにきてるユーザーなのでね。
なので、フォーマットごととか配信先ごとに見る、媒体特性をちゃんと理解してから数字を見る、というのも大事です。
このへんまではMMPのダッシュボードでも見れますが、特殊なデータベースを保持していないと浮かび上がってこない情報もあります。
たとえば「日本では売られていないはずの端末からばっかインストールが上がってる」とか、「インストールの8割が四国のとある県からのものだ」とか。
このへんはそもそも検証のためにぶつけるデータがないと分かりようがないですよね。
なので一定以上の規模の広告配信をしている方は、専門のフラウド検知ツールを使う経済合理性は十分あると考えています。
4) 多くのマーケターがとっている対策、無意味なもの多い
例えば『オーガニックを奪われるのが嫌だから、Click Throughのみで成果を見ます』という方。🙅♂️
View Throughを評価対象から外したところで、より優先度高い & アトリビューション期間が長いClick Throughを乱打するところにやられるリスクを高めるだけです。
詳しくはこちらの記事で解説してます↓
『フラウドが怖いからGoogle, Facebook, Appleだけ配信します』みたいな方。🙅♂️
いわゆるアドネットワークである限り、そういったプラットフォームからもフラウドが上がる可能性は常にあります (実際に事例も聞いてます)。
あと個人的には、事業成長のために打てる手を検討し尽くしていないという点で、マーケターとしての仕事をおサボり気味なのかなと感じてしまいますね。
世の中で何が起きているのかを正しく構造的に理解した上で、問題に対応した適切な打ち手を選択しないといけません。
それを誤ると、本来のビジネス成長の機会を損なうことになり、結果として競合を間接的に助してしまうことになります。
5) アドフラウド売ってた時間まじで無駄だった
短期的には、僕もフラウド売ることでぶっちゃけ儲かりました。お小遣いレベルで。
でも人生をそれだけで好転させるほどの金額では全然なかったし、スキルとして得られたものも、それによって構築できた新たな人脈も、何一つなかった。
あの半年〜1年で得られたもの、マジで何も残っていません。
僕のブログ、業界で読まれている方もちょいちょいいると聞きます。
現在、フラウドが極めて疑わしい媒体で働かれている方。
そのような媒体を、薄々怪しいな〜と思いながらも、目先の数値目標のために売っている広告代理店の方。
読んでますかー?
断言します。
あなたはあと2-3年したら「なぜあんなムダな時間を…」って後悔することになります。
その時間は返ってきません。
どうせ足を洗うなら、早めのほうが良いですよ。
全て分かっていながらも、フラウドを売ることを止めないという意思決定をされたあなた。
いま僕はフラウドを『撲滅する』ことにとてもやり甲斐を感じています。
なので、あなたはいずれ (あるいは、既に) 僕の攻撃を直接・間接的に受ける (受けている) ことになると思います。
楽しみにお待ちください。